紺碧を待つ 神末家綺談3
(かわいい・・・)
肩までの黒髪はまっすぐだ。切れ長の大きな瞳に、少し太めの眉毛。りんごのように頬を赤くした少女は、見とれている伊吹と視線を合わせると、さっと紫暮の後ろに隠れてしまった。Tシャツに短パン、足元はピンクのスニーカーだ。
「だ、だれ?」
「清香さんのお孫さんだよ」
「僕と絢世は、いとこ同士なんだ。ご覧の通り人見知りでね。ほら絢世、挨拶おし。伊吹くんはおまえと同じ四年生だよ」
紫暮に言われ、絢世はそうっと伊吹の前に立った。
「はじめまして、須丸絢世です・・・」
「こ、神末伊吹です」
か細い声。はにかんだ笑顔。むずがゆいものが背中を走り、伊吹はせわしなく手を髪にやる。胸がどきどきしていた。
「なにこれお見合い?かんわいいねえ」
「み、瑞!」
瑞がばかなことを言って噴き出す。
「当主が待っています。参りましょうか」
紫暮の運転で須丸本家を目指すことになった。京都の街中は込み合っている。紫暮は慣れた様子で大型の車を運転した。助手席の瑞が、抹茶ラテが飲みたいだの、水族館に行きたいだの言うが、彼は華麗にスルーしている。瑞の嫌味にも耐性があるらしい。
「今回の仕事には、僕も同行させていただくことになっています」
「助かるけれど・・・いいのかな。君は折角の夏休みなのに」
「お役目様の仕事をサポートできるチャンスですから、こちらからお願いしたいくらいなんですよ」
紫暮が答えると、瑞が嫌味たらしく笑うのが聞こえた。
「さすがは時期当主候補筆頭」
「何とでも。俺たちは神末の手足だよ瑞」
こんな立派な人たちを手足だなんて、と伊吹は居心地が悪くなった。同じように隣では、絢世も小さくなっている。緊張しているようだ。
作品名:紺碧を待つ 神末家綺談3 作家名:ひなた眞白