紺碧を待つ 神末家綺談3
みし、みし、と静寂にこだまする足音。足跡が埃の中に残っている。つい最近消えたという三人の若者のものだろうか。
(消えた・・・)
足跡が、三人が煙のように消えてしまったという恐ろしさを、リアルに伊吹に伝えてくる。
「雨戸は外側からぴったりと閉められているし、この狭い廊下に隠れるスペースもありませんね」
廊下の中央で、向こう側から同じように歩いてきた瑞と紫暮と合流する。暗がりに互いの顔が見えないのが怖くて、伊吹は穂積の手を絶対に離さなかった。
「本当に、煙のように消えたとしか形容できないわけか」
瑞がそう言って天井を仰いだ。
「なンかいるよねェ。すごいこっち見てンの」
瑞の言葉に、黙り込む一同。伊吹だって、ずっと感じている。廊下に立ち入ったそのときから。
これは視線だ。鋭く睨みつけるような視線ではなく、虚ろな、ぼんやりとした視線。誰かがこちらを見ている。様子を伺っている。だけど、その視線を感じる先が異様過ぎて、怖くて、伊吹は口にできなかった。
「どこから感じるか、せェの、で指差し確認ね。せェの、」
瑞の掛け声に合わせて一同が指を指した場所は。
「やっぱり・・・」
全員が床を指していた。足元を。
「下からだ。間違いないな」
紫暮が座り込んで懐中電灯を照らす。舞い上がった埃がきらきら光るのが見えた。勿論廊下に、床下へもぐりこめるような入り口はない。
「担がれたのかもしれませんね、舘林さんに。二十人や三十人なんてもんじゃない。百人、もっとそれ以上。それが俺たちを見ている」
作品名:紺碧を待つ 神末家綺談3 作家名:ひなた眞白