紺碧を待つ 神末家綺談3
ここには得体の知れないものがいて、ひとを闇へと引きずり込む。それをいま、伊吹はリアルに肌で感じることができた。
穂積と紫暮が母屋の至るところに結界を張っている間、伊吹は瑞とともに台所に立っていた。館林が言ったように、業務用の冷蔵庫には大量の食材が用意されており、食べるものには困ることはなさそうだった。
「おい味噌汁担当、ほんだしなンか使ったら許さんからな」
「つ、使わないよ!ちゃんと昆布で出汁とるよ!」
うるさい料理番め、と伊吹は口を尖らせる。鉄人なみの腕を持つ瑞は、仕込みにも食材にもこだわるから、一緒に台所に立つとものすごく面倒くさいのだ。一緒に料理して文句を言われないのは、瑞に料理を教えた祖母の佐里だけだろう。
「伊吹、俺なべ見てるから皿だしてきて」
「はいはい」
巨大な食器棚から皿を取り出そうと背伸びをしたとき、背後に気配を感じた。
瑞がそばにきたのだと思った。だけど振り返ると誰もいない。瑞は離れたコンロで鍋に蓋をしている。
「・・・あれ?」
「どうした、伊吹」
何だろう。変な感じがする。慌てて瑞のそばに戻る。
誰かいる。見えない何かが動き回っている。それは予感ではなく確信だった。
作品名:紺碧を待つ 神末家綺談3 作家名:ひなた眞白