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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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夜のゆびさき 神末家綺談2

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月が出ている。明るい庭から見下ろす村は早々に眠りにつき、静かな虫の鳴き声だけが聞こえてくる。

「伊吹は寝たかな」

隣に立つ穂積に話しかけられ、瑞はため息をつく。

「知らんよ。あいつ、なんか怒ってるし、わけがわからん」
「そりゃ怒るだろうよ」
「なんだ穂積、嬉しそうだな」

穂積は月明かりに穏やかな笑みを浮かべていて、瑞は口を尖らせる。

「嬉しいよ。おまえが悩んでグルグルしている」
「悩んでなんかいるもんか」
「悩んでいるじゃないか。伊吹とどう接していいのかわからんのだろ?」

わからない。体操着袋を投げつけられて、伊吹は悲しそうに涙を零していて、瑞はただ向けられた怒りを前に戸惑うしかなかった。

「あいつ反抗期かね」
「違う。おまえが他人の感情に鈍感なんだ」

伊吹は一体、自分の何に腹をたてたのだろう。今まで散々悪態をついたしバカにしたような態度をとったり、からかったりしてきた。だけど伊吹があんなふうに感情をむき出しにしてぶつけてきたのは初めてだった。

「まだまだ、人間の感情の機微には疎いな」

バカにしているのか、と瑞は穂積を睨む。いやに嬉しそうで腹が立つ。

「・・・厄介だな。俺にどうせよというんだ」

こんなことは初めてで、どうしていいかわからない。髪をがしがしとかき混ぜて、瑞はしゃがみこむ。