夜のゆびさき 神末家綺談2
旧校舎の二階廊下の一番奥、そこにものすごい唐突さで地蔵が立っている。何で廊下にそんなものがあるのかは、今はもう誰も知らないらしい。地蔵はうっすら微笑んでいて、夜になると動き出すのだという。勿論伊吹らは見たことはない。こっそり忍び込んだ上級生らから語り継がれている噂なのだ。
「指をな、こうやってさすんだってよ」
マコトが面白そうに言い、人差し指を伊吹に突きつけた。
「地蔵は夜になると子どもを探して連れて行く。一人が寂しいから、仲間を探しているんだ。そして連れて行く子どもを指さして・・・」
「地蔵って子どもの守り神じゃなかったっけ・・・」
伊吹の言葉を遮ってマコトは続ける。
「指をさされた子どもは、旧校舎から出られず・・・翌日から、地蔵が一体増えてるんだって」
ばかばかしい、と朋尋が言った。
「行方不明になった子どもなんていないし、地蔵が増えてるなんて話も聞いたことないぞ」
ただの噂話だろう。伊吹もそう思う。
「何だよ朋尋、怖いのか」
「そんなんじゃなくてさ・・・」
「じゃー今から確かめにいこうぜ」
マコトにけしかけられ、むきになった朋尋が立ち上がる。
「俺、懐中電灯持ってくるから待ってろ」
「・・・朋尋、」
「伊吹はいいよ、こなくても。今日は瑞さんもいないし」
マコトが去ったあとで、気遣うように朋尋が言う。
「・・・だめだよ、何があるかわかんないし。それに俺だって、」
ぎゅっとこぶしを握り締める。瑞の冷たい視線が脳裏に蘇るのを振り払った。
「俺だって、お役目の血をひいてるんだ。何かあったら、朋尋はちゃんと俺が守るから」
できる。瑞なんかいなくたって。怖くなんかない。
作品名:夜のゆびさき 神末家綺談2 作家名:ひなた眞白