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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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夜のゆびさき 神末家綺談2

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「でも・・・そうだなあ、」

足踏みミシンを戻して瑞はふと真顔に戻って言う。

「おまえもいつかは、その夜と対峙するンだよな」

それがお役目だから。神の花婿となって、村と一族を守るのだ。

「・・・俺がお役目になっても、おまえは俺のそばにいるのか」

瑞に向けて、伊吹は尋ねてみる。勇気のいる質問だったが、聞かずにはいられなかった。先日の、奥沢での一件を思い出す。瑞がいなければ、伊吹は闇の中に引き込まれていただろう。瑞が、いなければ。

「いるよ」

あっさりと返ってきた答えに、伊吹は弾かれたように瑞の顔を仰ぎ見る。しかしそこにあったのは、伊吹が期待したような優しい表情ではなかった。

「契約だから」

感情のない瞳が、伊吹を見つめてそう言った。それは、そう。優しさであるとか、情であるとか、そんな温かなものを感じさせない、義務的な口調だった。

「けい、やく・・・」

どういう意味かはわからないが、なんと冷たい響きだろう。誰かに強制されてそばにいるのだ。瑞が望むのではなく、仕方なしに。
以前瑞は、伊吹のことを主と呼んだ。その言葉から、伊吹は一つの推論をたてた。瑞は人間ではない。何らかの理由で、歴代のお役目に仕えてきている存在なのだと。

「で、でも瑞はじいちゃんが好きでしょう。好きだからそばにいるんじゃないの?けいやくしたから、一緒にいるのじゃないでしょう?」

瑞と穂積の絆の強さを、伊吹は知っている。伊吹といるときとは違い、穂積といるときの瑞は幸せそうだし、すごく優しい目をしているのだ。

「・・・そうかもな。穂積だけは、俺の特別だから」

穂積だけは。

(俺は・・・違うんだ、)

先ほどあんなに温かく感じた体操着袋が、ずしりと重い。

「いいよ、別に無理して俺といなくてもっ・・・」

もやもやした気持ちが一気に熱を持ち、伊吹の喉からほとばしる。家族じゃない。友だちじゃない。優しくしてくれるのも、守ってくれるのも、けいやくだから。瑞が俺を好きだからじゃ、ない。そのことが悔しくて、痛いくらいに悲しかった。

「も、もう俺にこんなふうに、優しくしなくても、いい!」

体操着袋を瑞に投げつけ、伊吹は自室へ走った。折角仲良くなれたと思っていたのに。笑顔も優しさも嘘っぱちだ。けいやくだから、一緒にいるだけなのだ。

体操着袋も。
花火大会も。

(俺が、次のお役目だからなんだ)

どうしてこんなに悔しいのだろう。悲しいのだろう。
部屋の机に突っ伏して、伊吹は泣いた。夕食も食べずに部屋に引きこもり、その日はもう瑞と顔を合わせる気にはなれなかった。