夜のゆびさき 神末家綺談2
「どこ、」
瑞が唐突に口を開き、顔をあげた。
「えっ」
「俺になら気なンか遣わなくていいだろ、どこ行きたいの」
素っ気無いその言葉。だが、温度が通っているように伊吹には感じられた。嫌々かもしれない、佐里に言われたから仕方なくかもしれない。だけど、嬉しかった。
「あ、俺・・・」
「なに」
「・・・あの、花火を見に行きたい」
隣県で開催される花火大会。日本海側最大級!なんていう広告を学校の掲示板で見た。海で見る花火はどんなだろうか、いつか行ってみたいと思っていたのだが、子ども同士で県外に遊びに行くのは学校でも禁じられているし、ひとごみの中に祖母を連れて行くのも忍びなく、言い出せずにいたのだ。
「いーよ」
「い、いいの?」
「いーよ」
「・・・ありがとう、」
小さな声で礼を言う。佐里が嬉しそうに笑った。
気まぐれかもしれないし、佐里が言うから仕方なくかもしれない。本当はいやだな面倒だなって思っているかもしれない。
それでも伊吹は嬉しかった。
こうして夏の「おでかけ」が決まったのだった。
作品名:夜のゆびさき 神末家綺談2 作家名:ひなた眞白