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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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夜のゆびさき 神末家綺談2

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(でもいいのかな・・・)

もし、穂積がいま死ねば、自分が穂積の受け継ぐすべてをこなしていかなくてはならないのだ。そんな覚悟、まだないのに。まだ、考えられないのに。

そんな自分には絶対聞けない。おまえは一体何なんだ、と。瑞の存在がこの家の役目と密接に繋がっているのはもうわかるから。生半可な気持ちで、まだ跡を継ぐ覚悟を決めていない自分に、聞く権利なんてない。

(近くにいるのに、瑞はすごく遠い存在だ)

伊吹が覚悟を決めない限り、瑞は決してこの距離を詰めようとしないだろう。










たっぷりプールで遊んでくたくたになって帰宅したのは、五時を過ぎてからだった。心地よくだるい身体を引きずり、伊吹は祖母のいる台所へ向かう。味噌汁の匂いが食欲をそそった。

「佐里(さり)も伊吹に甘いンだからー」
「でもねえ、せっかくの夏休みだしねえ」

こちらに背を向けて、祖母の佐里と瑞が夕食の支度をしていた。何やら話をしているようだ。

「ただいま」
「ああ、おかえり伊吹。もうすぐご飯だよ」
「手ェ洗ってこいよ」

うん、と応じて洗面所に向かう。洗濯物を洗濯機へ入れてスイッチを押してから手を洗った。

「じいちゃんまだ?」
「10時すぎるだろうな。バスないから、駅からタクシーで帰ってくるンじゃないか」
「ふうん・・・」

食卓に夕食を並べながら瑞が答える。ちゃらんぽらんなくせに、瑞の料理は驚くほどうまい。それがまた悔しくて伊吹は複雑だった。
三人での夕食が始まる。今日の献立には、伊吹の好物の揚げ出し豆腐のそぼろあんかけが並んでいる。幸せな気分で頬張りながら伊吹は尋ねてみた。

「ばあちゃん、さっき瑞と何はなしてたの?」
「そうそう、せっかくの夏休みだから、どこかお出かけしないかって話をねえ」

お出かけ、と聞き伊吹の心が躍る。

「でもばあちゃんは足が悪いし、遊園地なんかじゃ連れて行ってやれないし、お役目さんは忙しいでしょ。それで瑞にお願いしてたの」

それを聞いて伊吹は慌てて首を振った。

「いいよ、ばあちゃん。俺は友だちとプール行ったりするから」
「でも伊吹、行きたいところもあるでしょう?朋尋くんも沖縄旅行だって、おまえこの間話していたじゃないの」

それはそうなのだが、これまで苦労をしてきた祖母に気を遣わせたくなかった。伊吹を育ててくれ、それだけでもう十分ではないか。
神末の血を残す長女として生まれ、重い使命を負った一族を守り続けてきた祖母。穂積の跡継ぎである男子を産めなかった佐里が、とても悩んだことは子どもの伊吹にも想像がつく。優しい祖母を煩わせずに生きたいと、伊吹は子どもながらに思っているのだ。
そんなことを考えて黙り込んでいた伊吹だったが。