夜のゆびさき 神末家綺談2
「俺も・・・、」
「うん?」
「俺も、瑞のために、何かできるようになりたい・・・」
いずれこの式神は、伊吹に引き継がれる。使役され続ける彼に、何か自分ができることがあるのかどうか、それを探したかった。まだ幼い伊吹には、一族の末裔としてこの式神に報いたいなどという高尚な思いなどはなかったが、純粋に彼を哀れだと思うし、同時にひどく愛おしくも思うのだった。
「あ、」
暗い空に向かって、一筋の光が上っていくのが見えた。
「瑞みて、花火があがるよ!」
「ん」
ずん、と胸に響く重低音のあとで、夜空に大輪の花が咲く。あたりが昼間のように明るくなり、紺碧の水面に光が溢れるのが見えた。浜辺からは歓声が上がり、伊吹も思わず立ち上がっていた。
「伊吹、」
「え?」
小さな声で呼ばれた。花火に照らされた瑞の横顔。くちびるが何か呟いたのだが、花火の音に消されてしまった。
「・・・なに?」
「いや、いいよ」
ばつが悪そうに顔を逸らされた。ありがとう、と、そう聞こえた気がしたのは、伊吹の気のせいかもしれない。
「今度穂積と一緒に、山陰の小さな村に行くことになった。京都の須丸からの依頼で」
お前来ないか、と瑞が続ける。
作品名:夜のゆびさき 神末家綺談2 作家名:ひなた眞白