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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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夜のゆびさき 神末家綺談2

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「やあ、おかえり。前にも見たな、こんな光景」

眠りこけてしまった伊吹を背負って石段を登ると、穂積がやはり月光の下で瑞を待っていた。

「よく眠ってるようだな。ここんとこ、誰かさんのせいでろくに眠れてなかったみたいだから安心したよ」
「ふん」

嫌味を言いやがって、と瑞は穂積を睨む。泣いたせいだろう、背中の伊吹が熱い。その熱を感じながら、瑞はぽつりと零す。

「・・・伊吹がおかしなことを言うんだ」
「何だ?」
「こいつは俺に、優しくしてほしいんだって、不思議なことを言う」

ほおーん、と暢気な声が返ってきて、瑞はまた苛立つ。

「クソジジイ、ひとが真剣に・・・」
「それがどうして不思議なんだ。伊吹は何かおかしいことを言ったか」
「だって・・・それじゃあまるで、」

まるで。
伊吹が俺を、すごく大切に思ってくれているみたいじゃないか。

「たぶん、それが正解なのだろうね」
「・・・俺にそんな価値があるのか」
「おまえは自分を、まだ化け物だとでも?疎まれ、蔑まれて当然の存在だと思っているのか?」

月明かりの下で、穂積が優しく微笑む。

「他者に愛されるっていうのはそういうことだよ、瑞。望まれ、求められ、惜しまれる存在。今のお前はそれなんだよ」

伊吹の髪を優しく撫でつけながら、穂積は優しく言う。

愛される?
この俺が?

「・・・わからん」
「いまにわかる。さあ、もう遅いから休もうか」

穂積に続いて屋敷へ入る。

(なんだろうな、これは)

背中に感じる温度が、何だろう、ほんの少し愛おしく思える。
不思議だった。それは春の野に揺れる小さな花を見て、心がふわりと温かくなる感覚に似ていた。

だが悪くない。
瑞はそんなことを思い、一人月夜に笑ったのだった。