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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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夜のゆびさき 神末家綺談2

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しまいには全身を震わせて号泣しだした伊吹に、瑞は静かに手を伸ばした。

「帰るぞ」

伸ばされた指先を握り返す。しゃくりあげる伊吹の手をそっと引いて、瑞はそれ以上何も言わなかった。

(瑞の、手・・・)

それは冷たい指先だった。夏の夜、月光を水面に映す湧き水のように、冷たい指先。この夜と同じ温度をしている。

「俺はな伊吹、」
「・・・うん?」
「おまえがなんで怒ってたか、正直いまでもわからんのだ」
「・・・・・・」

昨日のあの諍いを言うのだろう。

「でもおまえ泣いてたから・・・悪かった」

瑞はあの諍いなんて、気にしてなんかいないと思っていた。伊吹が一方的に癇癪でもおこしたとでも思っているのだと、そう思っていたのに。

(気にしてくれてたんだ・・・)

伊吹は涙をぬぐって、握る指先に力をこめた。

「俺・・・花火大会も、体操着袋も、すごく嬉しくて・・・だけど、それが瑞自身から出た気持ちじゃなくて、全部、けいやくだから仕方なくなんだって思ったら・・・悲しくて・・・」

零れ落ちる言葉が、また涙声になる。それを気遣ってか瑞が足を止めた。

「・・・ごめんなさい、あんなこと言って。でも俺はっ、瑞と、花火大会行きたいっ・・・」

もう優しくしなくていいなんて嘘だ。あんなのはただの強がりで、本当は瑞が自分に向ける優しさが、瑞自身の内面から出たものであってほしいと願っているのだ。

「行こうな、花火。契約だからじゃない。そんなつもりで、承諾したわけじゃないんだ」
「うん・・・」
「・・・体操着袋だって、そうなんだからな」
「うん、うん・・・」

ますます泣けてしまって、伊吹は熱を持った額を瑞の冷たい手に押し付けた。