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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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夜のゆびさき 神末家綺談2

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夜の温度



マコトの家の前に瑞が立っているのに気づいて、伊吹は足を止める。月明かりの下、黒いティーシャツにジーンズ姿。足元はビーチサンダルといういつものいで立ちの彼は、腕を組んで怖い顔をしている。

「あ、瑞さん!」
「こンの・・・アン・ポン・タンッ!」
「イッテェ!」

瑞のチョップが三人の頭の上をリズミカルに跳ねた。それでも起きないマコトに、瑞はもう一度チョップを食らわせる。

「なんで、いるの・・・?」

ずきずきと痛む頭を抑えながら尋ねるが、瑞は伊吹を睨んだままだ。今夜は大人しくお説教されるしかなさそうだ。眠ったマコトを朋尋に託し、伊吹は瑞のあとを追った。

「・・・・・・」

空き地で瑞が立ち止まる。沈黙が落ち、昨日の諍いもあってか気まずい雰囲気だ。伊吹は俯き、なんと切り出そうか戸惑う。

「旧校舎にいたのは、力の弱い浮遊霊みたいなものだろう。おまえの退魔法でひるむ位だから、大したやつじゃなかったみたいだ」
「えっ・・・なんで知ってるの」
「俺にはわかるンだよ、おまえのことなら」

それも、契約のうちの一つなのだろうか。

「あれほど忠告したのに」
「・・・ごめん、なさい、」
「でもよくやったな」
「えっ?」
「朋尋たちが戻ってきたのは、あの地蔵の力もあるが、おまえがその力を行使するに見合う者だと認められたからだろうよ」

つっけんどんな言い方だが・・・これはもしかして褒められているのだろうか。伊吹は何と答えていいのかわからず、立ち尽くしたままである。

「怖かっただろう」

こちらを振り返った瑞が、初めて労うような柔らかい声で言った。

「あ・・・・・」

それを聞いたら、もうだめだった。安堵なのか、恐怖を思い出したからなのか、指先が震え、眼窩の奥から熱いものがこみあげてきた。あっという間に涙が溢れ、伊吹はしゃくりあげる。

怖かったし、もうだめだと思った。瑞がいなくても大丈夫だって思っていたけど、自分はやっぱりまだまだ未熟で。

「よく頑張ったな。さすがは穂積の跡目だ」

こんなやつ大嫌いだったはずなのに。契約に縛られて人間に使役されている化け物なのに。人の寂しさや傷なんか、ちっとも気にしない冷たいやつなのに。
優しくされると嬉しいなんて。認めてもらうと嬉しいなんて。
みっともなく泣く姿なんて、瑞にだけは絶対に見られたくないのに。涙はとまらない。