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つばめが来るまで

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「確かに、同じ物をつけています。」
「それをつけている人が、店の前で電話していたよ。その人が、この写真の人に似ているような気がする。」
「それって、14時20分ごろでしたか?」
「多分、そのくらいだよ。」
「それです!ありがとうございました。」丁度、僕の携帯に着信が入った時間帯だ。春花はここから僕の携帯に電話したが、僕は気付かず留守電につながったのだ。
「その女性と、何か話しましたか?」僕は聞いた。
「いや、遠かったからねぇ。何も話してないんだ。でも、他の誰かと話しているかもしれない。」そう言って、他の店員の人に写真を見せて聞いてくれた。中年のおじさんの店員さんが言った。
「このけったいなかざりをつけている子は、確かにうちの店に来たよ。確かキーホルダーを2つ買って行ったなぁ。何だったっけなぁ?」
『けったたいなかざり』とは、ひこにゃんである。恐るべし、ひこにゃんパワー。
「そうそう、宗谷岬の石碑の刻まれた、キーホルダーを買って行ったよ。『彼氏にあげるのかい?』って聞いたら、黙って微笑んでたよ。」おじさんは言った。
「他に、何か話しましたか?これからどこに行くとか?」
「いいや。直ぐにバス停の方に行ってしまったからなぁ。」おじさんは言った。
バス停に行ってみる。14時35分発の稚内駅方面行きのバスがある。これに乗るために、春花は急いでバス停の方に行ったのだろう。時間的に丁度符合する。これを逃すと、次は17時46分まで無いのだ。このバスで、稚内に行ったとすると、15時27分に稚内駅に着ける。すると、16時51分発の『スーパー宗谷4号』に十分間に合うので、その日のうちに札幌まで戻る事も可能だ。昨日のうちに、旭川や札幌まで戻っているかもしれない。
とりあえず、僕は稚内市内に行き、更に春花の足取りを追ってみようと思った。車で稚内市内に戻ると、駅前の売店や食堂で春花の写真を見せて聞いてみた。売店のおばあさんは、写真をしばらく見ていたが、
「覚えとらんね。」と冷たく言った。隣の食堂でも聞いてみたが、店のおばさんはやはり覚えていないと言った。時間帯から見て、食堂に入った可能性は低いだろう。ただ、バスの到着が15時27分で、特急『スーパー宗谷4号』は16時51分発だから、どこかの店か観光地で時間をつぶしているはずだと思った。
バスターミナルに行って係員の女性にも聞いてみた。しかし、こちらも見た記憶は無いとの事だった。その場に居た運転手さんにも聞いてみてくれた。しかし、見た記憶は無いとの事だった。
「昨日の、宗谷岬発14時35分発の稚内ターミナル行きのバスの運転手さんはいらっしゃいますか?」僕は聞いた。係員の女性は、勤務表を出して調べてくれた。
「ああ、際崎さんの運転だね。際崎さんは、今日は定期観光の方に乗っていてね、まだ帰って来て無いんですよ。」
「そうですか。では、結構です。色々、ありがとうございました。」僕は言った。
まだ、観光客は少ないとはいえ、夏の北海道である。もし見たとしても、そうは覚えていないだろう。念のため、レンタカーでノシャップ岬や稚内公園にも行ってみた。売店や資料館、科学館の係員にも聞いてみた。しかし、誰も春花を見たという人はいなかった。でも、僕は落胆しなかった。レンタカーを借りてなければ、ここまで来る可能性はきわめて低い。来るとすれば、バスで往復するか、タクシーを使うしかないが、そこまでして短い時間に観光するとは思えない。もっとも、昨日稚内に泊まったのだとすれば話は別であるが。その時になって、「そうか、その可能性もあったのだ。」と思った。
宗谷岬からバスに乗ったらしいことがわかった時、札幌行きの特急『スーパー宗谷4号』に間に合うので、それで札幌まで戻ったと思い込んでいた。しかし、もしかしたらこの街に一晩泊まっていたかもしれないし、もしかしたら今日は利尻観光に行っているかもしれない。もしかしたら、もう少ししたら、利尻からフェリーで帰って来てばったり会ったりするかもしれないのだ。僕は、あらゆる可能性を考えると、これからどうしたらいいのか正直わからなくなってしまった。初めて春花のおばあさんに会った時、おばあさんはどこから来たのか一生懸命推理したが、結局、全くの的外れであった。今回も、全くの見当違いかもしれない。
しかし、昨日、宗谷岬の売店に居た事は確かである。したがって、その後の行動が追えれば、必ず春花にたどり着くと僕は思った。
駅に戻ってキオスクの女性にも聞いてみた。もし、観光に行かなかったとすれば、1時間以上の待ち時間を、駅の待合室で待っていた可能性がある。そうすれば、キオスクの女性が見ている可能性がある。キオスクの女性は、写真をじっと見ていたが、
「う〜ん、何となく居たような気もするんだけどねぇ。居なかったような気もする。」と言った。やはり、昨日の『スーパー宗谷4号』には乗らなかったのだろうか。
僕は、とりあえず稚内でレンタカーを返して、16時51分発の特急『スーパー宗谷4号』札幌行きに乗る事にした。これ以上、ここに居ても手がかりは無い様だったからだ。
念のため、切符を買う際、窓口の駅員にも春花の写真を見せてみた。
「この女性が、昨日の『スーパー宗谷4号』に乗りませんでしたか?」僕は聞いた。駅員は、写真をよく見ていたが、やがて、
「ああ、確かに、覚えています。どこまで買ったんだっけなぁ。えーと、確か、札幌までの『スーパー宗谷4号』の指定席を買いました。そうそう。それと、翌日の札幌からの『スーパーおおぞら1号』の指定席を予約されました。」駅員は言った。
「本当ですか?!」僕はやっと手がかりをつかんだと、内心万歳をしたいくらい喜んだ。
「ええ、携帯にひこにゃんをつけている方でしょう?」駅員は微笑んで言った。
「そうです!彼女は乗車券は買わなかったのですか?」
「ええ。北海道フリーパスをお持ちでした。」なるほどと、僕は思った。北海道フリーパスは、JR北海道全列車の自由席が乗り放題で、指定席も6回利用出来る、お得な切符である。
「僕も、1枚ください。」春花は、なかなか堅実な様だ。どこかの駅で、駅員に勧められたのかもしれないが。
「特急『スーパーおおぞら1号』は、どこまで乗ると言ってましたか?」
「確か、終点の釧路まで予約されました。」
「僕も、今日の札幌までの『スーパー宗谷4号』と、明日の札幌からの『スーパーおおぞら1号』の指定席を指定してください。」僕は言った。僕は、とりあえず春花と同じルートを、一日遅れで辿っている様だ。しかし、恐るべし、ひこにゃんパワー。
その時、僕の携帯が鳴った。見ると、春花の番号からだった。僕は慌てて応答した。
「もしもし、春花ちゃん?今、どこにいるの?」僕は言った。
「・・・。」
「もしもし。春花ちゃん?」
「真人さん。ごめんなさい・・。」
「え?どういうこと?」
「・・・。」電話は切れた。
作品名:つばめが来るまで 作家名:夜汽車