送り屋無情
「君の噂は聞いているよ。名探偵だってね。で、うちの安浦が君に捜査情報を漏らしたようでね。実は君に私が直々に取調べをさせてもらおうと思ってね」
「だったら、警察署で取り調べればいいことでしょ?」
美雪は所長と安浦刑事を交互に睨んだ。
「そんな無粋で、色気のない取調べはせんよ。こういうホテルでじっくりと話を聞きたいと思ってね」
署長が舌なめずりをした。
「いいわ。その代わり、謝礼は弾んでもらうわよ。それと、安浦さんとはここでお別れよ」
「無論、そのつもりだ」
署長が立ち上がった。美雪は署長を睨み付けた。
(安浦さん、命拾いしたわね……)
美雪は心の中で呟いた。
署長は美雪の全身を舐めるように眺めている。既に股間は膨れ上がっていた。そんな署長を見て、美雪の中の「送り屋」の本能が目覚めた。
(こんな男、冥土に送ってやるわ……)
署長の愛撫は執拗だった。これほど粘り気のある男を今まで美雪は知らなかった。時間をかけ、美雪を嬲るはらであった。
「ほら、もっといい声を聞かせてくれよ」
署長が美雪の股間に顔を埋めながらねだった。署長の愛撫は執拗ではあったが、美雪に快楽はもたらさなかった。
「御免なさい。私、あんまり感じない性質なの」
業を煮やした署長が美雪に覆いかぶさった。
そこからが長かった。色々な男を経験してきた美雪ではあるが、署長は様々な姿勢を美雪に要求したのである。でっぷりと肥えた腹が、美雪の身体にタプタプと当たった。
美雪はただ、時間が早く過ぎることを願っていた。
翌日の昼過ぎ、美雪の事務所に安浦刑事が現れた。
「昨日は失礼しました」
美雪は安浦刑事を睨んだまま、返答をしなかった。ペーパーナイフを弄びながら、ただ安浦刑事を睨みつけていた。
「署長が死んだんです。急性心不全だそうで……」
「いい様だこと」
安浦刑事は真っ直ぐに美雪を見つめられなかった。
「で、何か用?」
「はい。一応、昨日の夜のことをお伺いしようかと思いまして……」
「冗談じゃないわよ。あんな蝦蟇蛙みたいな奴のことなんか、思い出したくないわよ。金で女を買った報いがあったのよ。あいつの財布、空にしてやったけど、署長の割に随分と少なかったわねぇ。でも警察署長が買春とはねぇ」
「すみません。これも一応仕事なので、昨夜のことを聞かせてもらえませんか?」