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送り屋無情

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 美雪は立ち上がると、ツカツカと安浦刑事の前まで歩み寄った。そして、ネクタイを掴む。
「あんたは交通安全課でしょ。殺人は強行班の仕事じゃなくて?」
「そ、そうなんですが、昨夜のことは何分……」
「じゃあ、私も話すことはないわ。帰って頂戴!」
 そう言うと美雪は安浦刑事を突き倒した。安浦刑事はただ項垂れている。
「署長の身体から薬でも検出されたの?」
「いいえ、何も……」
「じゃあ、私に何も用はないはずよ。さっさと帰って頂戴」
 安浦刑事は立ち上がると、「失礼しました」と言って、去っていった。そのくたびれた背中を美雪は憎悪の篭った目で見送った。

「さてと……」
 美雪は安浦刑事を追い出し、満足はしていなかった。その心の中に棘のように引っ掛かっているのは署長との昨夜の情事ではなかった。署長の死はまさに「してやったり」と思っている美雪であった。その美雪の心に引っ掛かる棘とは、市川俊樹がことだった。
「オマツリ、オマツリねぇ……」
 美雪は物思いに耽る時、必ずペーパーナイフを弄ぶ。それは癖だった。
 不意に電話が鳴った。電話の主は鈴木健吾の娘、麗佳だった。
「どうですか。調査に進展はありましたか?」
「こっちも行き詰っているのよ。何しろ、警察が事故死扱いしているんですもの。手がかりが少なくって……」
「そうですか。あのー、今更なんですが、父のことはもういいです」
「何ですって?」
「事実は知りたいですけど、後ろばかり見てちゃダメだなと思って……」
「そうね。私もこの案件は厄介だから取り下げてもらうと楽だけど、でも本当にそれでいいの?」
 美雪はペーパーナイフを弄びながら、視線を宙に泳がせた。
「はい……。死んだ父は戻りませんし、これから未来のことを大切にしようと思って……」
「ふーん……」
 美雪はつまらなさそうに答えた。それは商売が不調に終わるからではない。ここまで来るのに、美雪は不本意ながら警察署長に身体まで売ったのだ。それに、ようやく掴みかけた市川俊樹なる人物も宙に浮いてしまう。それを許すのは探偵の血が許さなかったのだ。
「でもね、少しだけ進展はあったのよ。お父様が釣りに行って乗った船で隣にいた人、その人が何かしら絡んでいるかもしれないの。まあ、証拠は何もないんだけどね」
「えっ、どんな方ですか?」
作品名:送り屋無情 作家名:栗原 峰幸