送り屋無情
(毎週、男を殺している私が、市川俊樹を気にするなんて……)
だが、相反するように、探偵としての血が騒ぐのだ。
美雪がシャワーから上がって、バスローブのままリビングでくつろいでいると、不意に電話が鳴った。受話器を上げると、電話の主はあの安浦刑事であった。
「どうもすみません。自宅にまで電話しちゃって……」
恐縮して安浦刑事が言う。
「どうして自宅の電話番号がわかりまして? 名刺には事務所の番号しか載せていなかったはずだけど……」
美雪が少し強めの口調でそう言うと、安浦刑事は「あっ」と言って、言葉に詰まった。
「まあいいわ。警察は職権で何でもできますものね」
美雪が皮肉たっぷりに言った。安浦刑事は口ごもる。
「で、何かわかりまして?」
「ええ、市川俊樹という男がどうも絡んでいるらしいんです。何の証拠もないんですが……」
「市川俊樹のことならば、私も調べているところでしてよ」
「え、そうなんですか?」
「確かに証拠は何もないわね。動機だってまるでわからない。ただ死んだ人たちは市川俊樹と同じ船に乗り合わせただけ……」
「そう、そうなんですよ。後は共通しているのは市川俊樹とオマツリをしたらしいんですね。動機と言えばそのくらいかなぁ」
「オマツリ……」
「そうなんですよ。詳しいことは、これから一杯やりながらどうですか?」
美雪は苦笑いをこぼした。どうやら、安浦刑事の本心はそこにあるらしい。
「いいですよ。行きつけのバーがあるんです。そこでどうですか?」
「バーですか。さすが美雪さん、お洒落ですね。私なんか居酒屋しか行ったことがありませんよ」
美雪は安浦刑事を不器用だが真面目な男だと思った。そんな男に付き合って酒を呑むのも悪くはなかった。
「では、後ほど……」
美雪は余所行きの服に着替え、入念に化粧を施した。
(シャワーを浴びた後なのに……)
そんなことも思ったが、安浦刑事の爽やかな笑顔を見られるかと思うと、女の本能が黙ってはいなかった。
程なくして、バー「トランゼ」のカウンターに美雪と安浦刑事の姿を見ることができる。安浦刑事は緊張していることが見て取れた。
「まずは乾杯しましょ」
美雪はジントニック、安浦刑事はドイツ仕込みの生ビールだ。グラスがカチンと鳴った。
「で、オマツリがどう関係してるの?」
いきなり美雪は本題に入った。