送り屋無情
事務所に戻った美雪はパソコンを開き、市川俊樹の名前を検索サイトで検索する。すると様々な情報がそこには載っていたが、『市川俊樹の沖釣りブログ』なるブログがあることを発見した。それを開いてみると、確かに九月二日と八月二十五日に新甲丸で、彼はカサゴを釣り上げている。八月二十五日の釣果はそれほど振るわなかったようだ。九月二日はまあまあと記載されている。
「やっぱり、有益な情報はないわね」
美雪はブログの記事を遡る。市川俊樹なる男は毎週のように沖釣りに出掛けている、無類の釣り好きのようだ。
「新甲丸の前が茅ヶ崎のひまご丸か……」
俊樹は八月十九日に茅ヶ崎のひまご丸からライトタックル五目と呼ばれる船に乗っていた。
「無駄だと思うけど……」
美雪は電話の受話器を持ち上げると、警察に電話を掛けた。そして安浦刑事を呼び出してもらう。
「ああ、八月の二十五日にも事故はありましたよ。やはり釣りの帰りの客で、確か茅ヶ崎のひまご丸だったかな。津川博之という方が亡くなっています。これも自損事故でしたね。いや、ここのところ、釣り帰りの客の事故が多いなぁ」
安浦刑事はあっけらかんと答えてくれた。
「車に異常とかはなくて?」
「いや、どの事故も車に異常は認められませんでしたね。完全にドライバーの不注意です」
その答えに美雪は肩を落とす。もしかしたら、市川俊樹が車に何か細工を行ったかとも思ったのだ。
「また、何かありましたら、よろしくお願い致します」
そう言って、美雪は電話を切った。
鈴木健吾と高島吉蔵と津川博之の自損事故死。それは市川俊樹という男と同じ釣り船に乗り合わせたという線で繋がった。だが、証拠が何もない。
「偶然と考えるには、あまりにも不自然だわ。確かに市川俊樹には何かある」
それは私立探偵としての勘だった。しかし、ただ船に乗り合わせただけで、どう自損事故に持っていけるのだろうか。それが疑問だった。警察は車に異常はないと言っていた。とすれば、市川俊樹が車に細工をした可能性は低い。
「市川俊樹が無謀運転で事故に導いた? でも、何のために?」
美雪は早めに自宅へ戻り、熱いシャワーを浴びた。身体を洗いながら、自分を繁々と眺める。
(この身体……、この身体でどれだけの男をあの世に送ったかしら?)
豊かな乳房はいつも男たちを虜にしていた。そんな自分が可笑しかった。