送り屋無情
美雪は背筋が寒くなる思いがした。だが、これは現実なのだ。となると、一週間以内にまた別の男に抱かれなければならない。でなければ、自分が死ぬのだ。
美雪はもう男を心から愛せない身体になってしまったことを理解した。
それからというもの、どれだけの男に抱かれ、殺してきただろうか。
時には行き連れの男に抱かれたこともある。章吾のような素行調査の対象の男に抱かれたこともあった。
美雪は相手に対する同情を一切捨てた。なるべく相手とは深く関わらないようにし、抱かれていたのである。だから、身の上話などは聞かないようにした。情にほだされて殺せなくなっては困るからだ。
その「送り屋稼業」の見返りとして、美雪は巨万の富を得た。私立探偵の仕事にそれほど熱を入れなくても、十分豪勢な暮らしができた。美雪を飾っている衣類からジュエリーの数々は、どれも一流品だ。
美雪はダイヤのリングに目を遣った。その輝きも男の命の代償かと思うと、今では魅力的に輝きを増して見える美雪だった。
「さてと……」
美雪は腰を上げた。気は進まないが、鈴木健吾の事故死について調べねばなるまい。
「多分、ただの事故死だと思うけど……。猿も木から滑るのよねぇ」
今では「送り屋」の隠れ蓑として私立探偵を続けている美雪であった。
美雪は警察に赴いた。交通安全課を訪ねると、若い安浦という刑事に話を聞くことができた。
「ああ、鈴木健吾ね。事故死した」
「娘さんから、調査の依頼がありまして……」
「本当は守秘義務があるから、話はできないんだけどね。あんた美人だから、特別に教えちゃう。あれは事故死でもかなり不審なんだよなぁ。車のどこにも異常はない。かといって、直線の高速道路だろ。そこで突然クラッシュするとはねぇ。普通じゃ考えられないね」
「どこからか狙撃された形跡とかは?」
「あー、そんなのないない。兎に角、不思議な事故ってことだけは確かだね。まあ、言えるのはここまで」
「そうですか……」
「あー、そういえば、確かその前の八月二五日の自損事故も新甲丸の乗客だったな……」
「新甲丸?」
「釣り船だよ。金沢八景から出ている乗り合いの……。まあ、関係はないと思うけどね、探偵なら一応は当たってみたら?」
「その前に亡くなった方のお名前は?」
「高島吉蔵さんだったかな」
「ありがとうございました」