送り屋無情
紳士は会話が巧みだった。美雪の知らないようなことや、美雪の質問を先回りして答えてくれたのである。
「君は男好きする顔だな」
二人がすっかり打ち解けた頃、ふと紳士が美雪の顔を覗き込むようにして言った。
「わかる?」
「わかるとも、この歳になればね。しかも君は一人の男じゃ満足しないだろう?」
「そうね。私にも好みはあるけど、できれば世界中の男を虜にしてみたいわ」
「なるほどね。私じゃダメかね?」
美雪は紳士を見た。歳はとっているが、清潔感あるその雰囲気は美雪に好印象を与えた。
「いいわよ。だいたいバーで私が一人で飲んでいる時、隣に座る男は身体目的なんだから……」
紳士はニヤリと笑った。
その後、美雪はホテルで紳士に抱かれた。紳士は美雪を抱いた後、言った。
「君の男好きを仕事にしてみないか?」
「あら、あなたはそちらの筋の方だったの? これでも私立探偵をしているの。風俗の真似事は御免だわ」
美雪はつまらなそうに答えた。だが、紳士は美雪から視線を逸らさなかった。むしろ、食い入るように覗き込んできた。
「そうじゃない。今までどおりでいいんだよ。ただ一週間に一人ずつ違う男に抱かれるんだ」
「何それ」
「その男は君に抱かれてから二十四時間以内に心不全で死亡する。その謝礼として、一人につき百万円払おうじゃないか」
「馬鹿な。誰が信じるのよ、そんな話……」
「信じるも信じないも、君はもう『嫌』とは言えないんだよ」
紳士の目には恐ろしいほどの殺気が篭っていた。
「あなたは一体、何者なの?」
「私はモノグサな死神だよ」
「じゃあ、もし私が男に抱かれなかったら?」
「その時は君が死ぬのさ」
紳士は笑った。その目からは殺気は消えていた。だが瞳は笑ってはいなかった。
それから、美雪は試しに自分へストーカーまがいの行為を繰り返していた男を誘い、抱かれてみた。すると、翌日にその男は心不全で急死したのだった。美雪は慌てて銀行で自分の講座を確認した。すると、確かに百万円が振り込まれていたのだ。振込み人は「送り屋商会」となっていた。紳士が言っていた。美雪のような仕事をこなす人間を「送り屋」と呼ぶのだそうだ。冥土に送るから「送り屋」なのだとか。