送り屋無情
安浦刑事がまた黒ビールを舐める。美雪は残っていたジントニックを一気に飲み乾した。そして、お替りを注文する。
「先日のこと、まだ怒ってますよね?」
安浦刑事が恐る恐る尋ねてきた。
「安浦さんは人がいいからね。署長に脅されたんでしょ?」
「わかります? 実は私、署長が死んでホッとしてるんですよ」
安浦刑事がはにかんだように笑った。美雪もフッと笑った。
「はーあ、本当はあなたと寝たかったのに……」
「すみません。期待を裏切っちゃって……。今更じゃ遅いですか……ね?」
安浦刑事が美雪の瞳を覗き込んだ。美雪は真剣な眼差しで安浦刑事を見つめ返す。
(この人、私の仕事に首を突っ込み過ぎているわ……。でも、悪い人じゃない)
そんなことを思う美雪であった。一時は美雪を売った安浦刑事だが、お人よしは変わらなかった。爽やかな笑顔も、以前のままだ。そんな爽やかな好青年の命の炎は何色かと思う。きっと、限りなく透明に近いクリスタルのような色をしているのだろうか。それが燃え尽きる瞬間を見てみたい気もする。それは美雪の「送り屋」としての本能がそう思わせているのかもしれなかった。
「いいわ。ホテルに行きましょう」
美雪がジントニックを煽って、席を立った。安浦刑事の顔がほころんだ。
(今週の獲物こそ、あなたよ。安浦さん……)
美雪は心の中で呟いた。
シティホテルの一室で、美雪と安浦刑事はもつれ合っていた。
「ああ、美雪さん……」
「ああ、安浦さん……、きて……」
夢中になって美雪に齧りつく安浦刑事。美雪は珍しく、自分が「喘ぎ声」を漏らしていることに気付いた。
「はあっ、ああっ、いい、安浦さん……」
普段は死に行く男の顔を眺めながら、喘ぎ声など漏らさぬ美雪であった。ただこの時は、少し気の弱く、誠実そうな好青年に抱かれ、美雪もまたその心に火が点いたのだろう。
安浦刑事は誠意を込めて抽送を繰り返す。その度に美雪の中の女が悦びを感じていた。
「ああっ、安浦さん、頂戴!」
美雪は髪を振り乱しながら叫んでいた。
長いとも短いとも言える耽美な時間が終わっても、二人はベッドの中でもつれ合っていた。
「ねえ、安浦さんは星占いを信じまして?」