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送り屋無情

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「そんなの知らないわよ。私は直接、会っているわけでもないし……」
「名前と住所、連絡先、わかりますか?」
「今までの調査費用を払ってくれたら、お教えするわ」

 それから一週間が過ぎようとしていた。
美雪が次の獲物を探そうと、入念に化粧を施し、夜の街に出掛けようとした時だった。不意に自宅の電話が鳴った。
(無粋な電話だこと……)
 美雪に嫌な予感が走った。気は進まなかったので受話器は取らなかった。すると、不在時のアナウンスが流れ、メッセージを入れられるようになる。
「もしもし、安浦です。鈴木健吾さんの娘さんの麗佳さんが今日の午後四時に亡くなりました。父親の時と同じ自損事故です。どうやら市川俊樹と一緒に釣りに行ったようなんですが、その帰りでした。釣り船は金沢八景の三番瀬丸です。どうやら、シロギスを釣りに行ったようなんですが……」
 そこで自動録音は切れた。慌てて美雪は受話器を取る。
「ああ、何だ、美雪さんいたんだ」
「ちょっと、安浦さん、どういうこと?」
「今、留守電に入れたとおりです。麗佳さんが亡くなりました。父親の時とまったく一緒です。直線の高速道路でクラッシュして……。巻き添えがなかっただけ、マシでしたね」
「鈴木健吾の時と同じ……。もうちょっと詳しく教えてくれない? バー『トランゼ』で待ってるわ」
「あ、会ってくれるんですか?」
「いいから早く来て」
 そう言って、美雪は受話器を置いた。
(麗佳さんに市川俊樹の連絡先を教えるんじゃなかったわ。それにしても市川俊樹はどうやって……?)

 バー「トランゼ」に安浦刑事が到着したのは、美雪がジントニックを半分ほど飲んだ頃だった。
「あ、今日もばっちりお化粧、決まってますねぇ」
 安浦刑事は笑顔を作りながら、美雪の隣に座った。そして、黒ビールを注文する。
「どうして、どうして市川俊樹の隣に座った釣り人はみんな死ぬの? それも全部事故死……」
「私に聞かれたってわかりませんよ。そちらの方が調査も進んでいるんじゃないんですか?」
 安浦刑事は黒ビールをチビッと舐めて、困ったような顔をした。
「で、市川俊樹と麗佳さんはシロギスを釣りに行ったのね。麗佳さんは釣りをする趣味など持ってはいなかったわ。きっと、市川俊樹に接触を図ったのよ」
作品名:送り屋無情 作家名:栗原 峰幸