嘘でもいいよ vol.20 悪事
嘘でもいいよ vol.3
目元に高校時代の面影はあったが
あの頃とは、まるで別人だった。
チャットで話している間、顔の見えない
同級生の学ランを着た
あの頃の彼の顔を思い浮かべていた。
彼は多分、今の自分に自信があるんだろう
私は…
鏡を覗いた。
顔はたるみ、シワも増え、ほうれい線もくっきりだ。
がっくりと落ち込んだ。
<麗子ちゃんの写真も送って>
<今度ね(^^)>
私は何枚も、何枚も自分の写真を撮った。
初めて、「若いって、素晴らしい」と実感した。
油断していた。
まるで浦島太郎になった気分だ。
何時間もかけて、シワやシミやタルミの目立たない
一番若く見える写真を撮り、彼に送ると
<麗子だ~っ!変わってないね>
<歳、取っちゃったよ~>
<お互い様だよ>
お互い様だって…。
やっぱりな…老けたと思ったんだろうな…。
<純くんは、病気とかしてないの?>
<去年、胃潰瘍と大腸ポリープ(笑)>
<うそ!?もう大丈夫なの?>
<うん、再発してないかもうすぐ検査はあるけどね>
<大変だったね>
<一人で全部やったし…>
<ひとり?奥さんは>
<何もしないよ、入院中も来やしないしね>
<な、なんで?>
<数年前から浮気してるの>
<まじで?子供まだ学生でしょ?>
<そう。同級生と浮気して、バレたら開き直って、離婚するから
家の権利半分よこせだって…ふざけてるよね>
<子供が可哀想だね>
<でしょ?今は我慢してる、子供のために>
<子供はパパもママも好きだからね>
<胃潰瘍にもなるでしょ?>
<そうだね>
<軽い鬱にもなったよ>
その夜、彼は堰を切ったように
彼女の浮気話を語った。
幸せなんだろうと、思っていたのに
彼の身にこんな不幸が起こっているなんて…。
何故だろう、その時、私が彼のことを
支えようと…
彼がとても 愛おしくなった。
作品名:嘘でもいいよ vol.20 悪事 作家名:momo