そらのわすれもの4
「何を諦めるか分からないけど…諦めない方がいいんじゃないか?」
優太は知秋の手首を掴んだ。
優太に引っ張れる形になり、知秋は階段を1段、降りた。
二人の距離が縮まる。
呆れたような目で知秋は優太を見た。
「滅茶苦茶すぎるだろ?何を諦めるか分からないのに反対とか…。」
「知秋は信じてるんじゃないのか…。」
人を。
その言葉を優太は何となく飲み込んでみた。
知秋は優太に下手に助けようとするなと言った。
それは彼女の中で助けに来てくれる以外に優太がここに来た理由の選択肢がない証拠だった。
好奇心から知秋を探す事だって十分考えられるのに。
彼女はそれを考えなかった。
「とにかく、黙っているから。」
「…。」
知秋は訝しげに優太を見た。
「別にいいよ。あたしが変な生き物だって周りに言いふらかしても…。そしたら、諦めがつくから…。」
知秋は下を向いた。表情が暗い。
「もう、普通に過ごそうだなんて思わないから。」
知秋は小さく呟いた。
言ってしまった。
言葉にすると知秋は実感が湧き、呼吸が苦しくなる。
優太は知秋の様子を見ると堪らなくなった。
「諦めるなよ。」
優太は知秋を見詰めた。
「この生活が好きなんだろ。」
それを聞くと知秋は関を切ったように涙を流した。