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みやこたまち
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ミヨモノリクス ―モノローグする少女 美代の世界

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六月 エクソシスト



 親戚の姉さんのこと。

 私は彼女をそれなりに認めていた。彼女は短大を卒業した後、花嫁修業をして、人生を順調に航行している。
 彼女はモラリストだ。天下無敵の常識人だ。ナイチンゲールのように気高く優しく、マリアテレサのように芯の強い人だ。彼女は洗礼を受けたれっきとしたキリシタンで、私のことを気にすることが神の御心にかなうと信じて止まない節がある。
 私は、サタンに魅入られた罪深き者なのだ、彼女に言わせると。
 それはとても失礼で、荒唐無稽な事だと思うけれど、彼女の思い込みは半端ではない。私はいつも体の良いお説教をやんわりと受けることになる。何気ない仕種の一つ一つに、私への教示が込められていて、彼女自身、そのことに気づけないほど板に付いている。

 だから私は彼女の徹底ぶりに敬意を表して、首を一回転させたり、緑の反吐を吐いたりしないように心がけている。姉さんは、映画のエクソシストくらいでは眉ひとつ動かさないけど、私はそういう姉さんの方がよほど恐ろしい。多分それは、私が十字架に焼かれる悪魔だからだろう。
 私が今のような生活を始めた当初、まだ、両親揃って、途方にくれていた頃。実家に戻って来た姉さんは三日とあけずに家に来た。教育心理学なんて専攻していたせいだと思うけれど、姉さんは、姉さんではなくなっていた。私は患者になった覚えはないのだけれど、姉さんはカウンセラーのように微笑んだ。

 その姉さんが結婚する。見合いしたのだ。

 私は姉さんの見合いの相手を、早速調べた。暇潰しの材料になるのと、姉さんに姉さんを分からせる材料になると思ったのと、動機は両方だ。この兄さんが、良くしゃべる。包容力豊かで優しくて、しかし、ただの男だ。私は兄さんの過去なんて必要ない。私は自分の過去にとっぷりと漬かっていて、それを悪いとは思わない。でも、それは自分の昔話だからだ。人の物なんて、関係ない。
 未来について語り始めると、人の目ってどうしてああも作り物めいてくるのだろうか。現実的な夢を見ることができないで、夢はいつまでも夢のまま語られる、そのことがすなわち夢なんだ。夢は持ち続けるのが正しくて、実現させようと努力するのは馬鹿なんだ。

 夢って……

 寝ているときに見るものと、将来への希望とが、なぜ同じ言葉で表されるのだろう。私には納得できない。
 ついでに、寝ている時に見る夢は、無意識の表出であって、自らの欲望や隠された自我を表現している。そしてそれらは皆、セックスに関係がある、なんて理屈が、どうして有り難られるのかも検討がつかない。私はそういう学説を本で読んで、唾を吐いて、本棚の一番奥へ押し込んでやったのを忘れていた。そのせいで火刑から免れて、翳の底からひょっこりと現われたものだから、怒り心頭に発し、生ごみと一緒に黒い袋へ放り込んでやった。

 手付けずのままでいいもの。私はそういうどうでもいいことを、したり顔でのたまう輩が大嫌いだ。その対象が、深層心理とか、精神的抑圧とかいう述語の基に語られているのを聞くと、全身に粟粒が生じてくる。姉さんは、どうもそういう人たちの仲間に入ってしまいそうで、私は憂慮している。私の手で、何とかしてあげたいと思う。彼女の凝り固まった価値観が、アカデミズムに毒されて、いけない方向へ向かおうとしている。だから、あんな、くだらないずんぐりむっくりの医者の卵なんかと結婚することになってしまうのだ。姉さんこそ、病んだ魂の持ち主で、それを祓うのは、私の役目だ。