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みやこたまち
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ミヨモノリクス ―モノローグする少女 美代の世界

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五月 焚書



 雨が続く。菜種梅雨だという。新緑の緑が白々しい程の雨雲の色。部屋の中までしんとしていて呼吸が楽だ。
 この頃、母親が外出することが増えて、苛立つ事が減った分、ますます退屈に拍車がかかる。雨が降ると野良猫も出てこないし、燕も飛ばない。

 私は日がな一日本を読んで過ごす。この家には、影のように本がある。そして私はそれを読んで、もとどおり仕舞う。梶井基次郎とか、佐藤晴夫とかを読む。じとじととした人たちが、胃を痛くしながら文句を言っている。
 その難しい漢字の新鮮な読み方、妙に口幅ったいような言い回しに魅かれて、この当たりの時代の作品を読む。こういう本は何故だか活字が凹んでいて、目を閉じて頁を撫でているだけでも気分がいい。窮屈に並んだ文字達を見ていると、催眠術にかけられているみたいだ。私も何か、こういう具合に文字を並べてみたくなる。

 でも、そう思うだけだ。

 私の中からは、私の気に入るような文章は一つも出てこない。どれだけ本を読んでも、いろいろな事を考えても、独言を言い続けても、それらは文章にはならないし、紙に書き付けることもできない。日記を読み返してみても、その退屈な、つまらない文句の羅列にため息を付く。私から離れた私の言葉、私の気持ちは、私から見て、全然面白くない。

 退屈なとき、私は本を読む。この家は、本で翳っている。私はその匂いが好きだ。でも、私はそれを読む虚しさを知っている。一番の暇潰しは、私自身を空っぽにしてしまうことだ。

 雨の合間に、うんうんと唸りながら、焚書を決行した。

 裏庭から、黄ばんだ煙が渦を巻いて上っていった。竜神様への捧げ物。私は紙の焼ける匂いに陶酔して、人柱の快感を知った。