覇王伝__蒼剣の舞い2
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四獣聖の面々も、臥龍山を目指していた。
王都の護りは、狼靖と央軌、ドクトール・ヴィラー、そして数日間で鍛え直された蒼国軍に任せて。
「大丈夫かなぁ…」
「焔さま」
「王都じゃなくて、これから。黒抄の大群と鉢合わせしたら数からいってやばいよ」
「こんなことでビビらないのが四獣聖と、いいませんでした?」
「嫌味云うね、タクちゃん。もう、誰かの影響みんな受けるんだから」
その誰かは、先頭を行っていた。
一応、四獣聖の正装でもある武装をしていたが、四人しかいないのだ。
「焔の言葉、冗談で終わる事を祈ります」
「珍しく弱きだな、星宿」
「山の中での戦いに慣れてませんから」
「さすがの四獣聖も形無しだな」
清雅は、一人落ち着いていた。
さすがは、戦場育ちである。肝が据わっている。
だが、だがらと云って敵に今は見つかる訳には行かなかった。
「拓海」
「え…」
ふいに深刻げな清雅の口調に、拓海は動揺した。
「お前___亡霊を信じるか?」
「はい?」
飛び出す言葉に、どう答えていいか。
「つまり〜」
おどろおどろしい声で、焔が拓海の横から顔を出す。
「ひっ…」
「…っ、あはは…!」
「焔さまぁっ!」
「あ、いや…、くくく…」
馬の上で腹を抱え、目に涙さえ浮かべて笑う焔に、拓海は憤慨した。
「笑い事ですむといいが」
「ちょっ…、あの…亡霊いる、んですか?」
清雅は、冗談を云う男ではない。勿論、通じる相手でもないから焔のように笑ってすます事もしない。あくまでもその顔は、話しかけられた時と変わらない。
これがいつもなら、ふざける焔を睨み、怒る清雅である。
「さぁな、俺は未だ会っちゃいない。だが、いるらしいぜ」
「清雅さま?」
「東領の人間でも、滅多にここには来ない。数十年前に来たっきりな」
「覇王陛下ですか」
「いったい何の亡霊が…」
「これから聖域に武装して入ろうって輩を、そう簡単に受け入れてくれるか?赤の谷でさえ、白碧が占拠する前は遺跡の管理人がいたんだ」
「臥龍山の管理人は、その亡霊だと?」
「単なる想像さ」
清雅は軽く笑って、再び馬を進めた。
だが、お陰で一同の顔は硬くなった。
時同じくして、黒抄軍も聖域に突入した。
変化は、その直後。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い2 作家名:斑鳩青藍