覇王伝__蒼剣の舞い2
「義姉上こそ、いつぞや以来ですね。まさか吾と話したいなど連絡してくるとは思ってませんでしたよ。清雅お気に入りの貴女が」
怜悧な美貌とは裏腹に、冷ややかな表情と声。
「可愛げない義弟にこれ以上振り回されるのはごめんだわ」
「随分なおっしゃりようだ。ご用件は?」
「黒狼義兄さまが、遺産は知らないかと聞いてきたわ。何のことか知らないと答えたけど、聖連、貴方は知っているじゃなくて?」
「知っていますよ」
「えらく素直ね」
「いずれ理解る事です。吾が、どういう人間か貴女はご存じでしょうに」
「異能の力」
「ふふ、さすがは義姉上。吾は義兄上のように剣は振るえませんから。ですが、あの父上も探せなかったドラゴンの遺産は吾の力を以てしても探り当てられない。初めてですよ、こんな事は」
「貴方は、覇王にはなれないわ」
「理解りませんよ」
ふふ、と嗤いながら白王・聖連は胸に下がる首飾りを弄った。
その先に吊された貴石が、妖しく紅く輝く。
紅王・凌姫の姿が鏡から消えた後、鏡には別の人物が映し出された。
「白王陛下、手はず通りに」
「ふふ、天狼星は間違いなく蒼国にある。上手く紅華から出られたと思っているようだが、爪が甘いね。義姉上は」
「陛下」
「清雅は、きっと出てくるよ。彼らも遺産は気になるだろうよ。須黒、黒抄には気付かれぬようにな」
「ご安心を。彼らはこちらの誘導のままに動いております。蒼国を今こそ攻め落とそうと躍起になっております」
「清雅の首と蒼剣を手に入れる、それで覇王だなんて義兄らしいね」
不適な笑みの裏で、聖連の陰謀は動き始めていた。
「ここが、臥龍山か?」
「はい、黒王陛下」
「随分険しい山だな」
「陛下、蒼国は我々が山を越えるとは思ってはいますまい。それに、彼らにとってここは聖域。むやみに登る事を禁じられていると申します」
「蒼国は山には不慣れと?須黒よ」
「御意。平地での戦が主の四獣聖とて不利。戦いの場は王都しかございませぬ」
「それで、敢えて山越えを提案したか?さすが、聖連の側近よ」
満足そうに笑みながら、黒王は馬を進めた。
戦とあって、黒王をはじめ甲冑に身を纏い、意気揚々と上を目指すのだった。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い2 作家名:斑鳩青藍