覇王伝__蒼剣の舞い2
カン!
「…うわぁっ」
「脇が甘いっ!」
「…っ」
「どうした?そら後ろだ!」
狼靖の剣は、鬼気迫るものがある。その剣にブレはない。
___これが…玄武の剣。
本気で受けなければやられる。清雅と同じ手加減なしの本気の殺陣。
『雑念は捨てろ、精神を一点に集中させ、相手を捉える』
こんな時に、何故そんな言葉を思い出すのだろう。
___僕は、玄武になる。
『だったら理解ってるな』
そう、父を乗り越えなくては玄武にはなれない。狼靖は、そう云っているのだと拓海は理解した。その想いに応えるためにも___、
___僕は。
「清雅さま」
広場を見ていた尚武が、清雅を振り返った。
「狼靖の云いたいことが理解ったようだな」
拓海を包む、緑色のオーラ。
キィ…ン。
二つに折れた剣が、宙できらりと光る。
「それでいい」
狼靖が、ニヤリと笑う。
「父上」
「お前が、玄武だ。拓海」
それは、狼靖の玄武としての引退を意味していた。
「だからってさぁ…」
焔が、尚武の煎れる紅茶を啜りながらまたむくれていた。
「焔」
「引退なんて、性急過ぎません?」
「吾は一度引退した身だ。それに拓海は玄武に目覚めつつある。何の悔いもない」
「それでも隠居は早いと思います」
「剣は封印するつもりはないが」
「だったら」
「焔、玄武さまには玄武さまのお考えがあるのだ」
「星宿、これから何が起こるか理解るか?どうしたって、黒抄、白碧との戦いは避けられん。覇王陛下の時代は、各領主ともそれほど力も、欲も強くなく、相手を倒さずにその人格と才で制した。彼らは四国を纏める覇王の誕生を待っていたからな。だが、今は違う。二カ国とも力で民と国をねじ伏せようとしている。覇王陛下は、そんな二人を見抜いていらした。吾もな。覇王の血筋だからと云って、覇王にはなれない。この四国を想い、民を想い、その為に剣を生かす。覇王陛下はそういう方だったよ」
「清雅さまは何と?」
「理解ってたよ。相手を見抜く能力は、さすが覇王陛下の御血筋だな」
引退を決意した狼靖を、清雅は理解っていた。
こんな日が来るのを、もっと前から知っていたかのように。
そして彼は、拓海に玄武の才を見いだした。
「玄武さま、いえ、狼靖さま。もう覇王はおられます」
「星宿」
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い2 作家名:斑鳩青藍