覇王伝__蒼剣の舞い2
相手は一人、向かうは数十人の腕に覚えありの面々。
「おい、次誰が行く?」
「お前が先に行けよ」
「ばか、殺す気か」
「死にゃしないって。これ練習だろ」
そう云いながらも、顔は青ざめている。
いつも剣の練習といって相手をしているのは、レオンシャークか星宿だ。しかも使う剣は練習用の刺される事のない剣。
「さぁ、かかってきな」
「ひぃ…」
ギラリと向けられる剣に、突き飛ばされるままに躍り出た男が腰を抜かした。
本物の剣と、本気の男に。
「凄いなぁ」
「リョウ・オン、関心している場合じゃないと思うけど」
「拓海さんは、やらないんですか?」
眸を輝かせるリョウ・オンに、拓海はこめかみを揉まずにはいられなかった。
リョウ・オンのような人間なら、喜んであの場に進み出るだろう。
相手は、彼が憧れる四獣聖・蒼龍。
「そんなんで剣士だぁ?ふざけんじゃねぇ!!」
加減を知らぬ清雅の剣と覇気に、もはや練習どころではなかった。
平和ぼけを叩き直してやる___。
そう云った清雅の言葉が実現したのはいいが、蒼国の戦力は主の思う以上に低かった。
「よく今まで、蒼国が無事でしたね」
「四獣聖のうち、清雅さまと吾がいたからな」
星宿が、苦笑いしながら答える。
それは、狼靖が玄武を一旦退いて蒼国を去ってからの七年間。
「焔さまは何をしてたんですか?」
「僕もいたよ。ちょっと白虎さま、何で抜かすんですか」
「あぁ…、忘れてた」
「ひど…。セイちゃんの性格に似てきましたね」
「そうか?」
そんな彼らの背後で、男がじっと広場を見つめる。
何かを決意して、そして。
「清雅さま、彼らは吾が仕込みましょう」
「狼靖…?」
それは、清雅も初めて見る狼靖の顔だった。
いつかは、誰でも終焉は訪れる。
そう云って何処か寂しそうな横顔を、今になって思い出す。
時代は変わる。古き良き過去を残しながらも、時は止まらない。
悔いはない。
もうあの時のような後悔はもう。
「こちらにおいででしたか、清雅さま」
「何となく、これを見たくなってな」
蒼国王城の奥に掲げられている肖像画。
それは、蒼国が建つ以前からこの城にあるもの。東領主だった蒼龍王と呼ばれる男の。
「よく似ておられる」
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い2 作家名:斑鳩青藍