覇王伝__蒼剣の舞い2
そう云って、清雅は焔と駆け出して行った。
「狼靖どの、あの方は覇王陛下の…」
「吾の妹とのな。央軌どのも理解ったか」
「はい、覇王陛下のお若い頃にそっくりでしたので」
だがそれだけではない。
央軌にも、それは理解ったようだと狼靖は軽く笑んだ。
黒抄の数、ざっと数十人。
いつもの刺客と異なるのは、彼らを率いている二人の男にある。
「清雅さま」
拓海が、先頭を行く男を呼んだ。
「いよいよ、黒抄も本気だって事さ。精鋭左右の将軍を寄越してくるんだからな」
二武将、右将軍・闇己、左将軍・義勝。その義勝と清雅は因縁が深い。
「精鋭軍を率いる二人にしちゃ、少なくない?」
「焔さま、随分余裕ですね」
「こんなのでビクついてちゃ四獣聖なんてやってられないよ。ねぇ、セイちゃん」
「問題は、奴らの狙いだ。単に俺の首だけじゃないって事は確かだぜ」
「それは…」
何なのかと聞こうと口を開ける拓海の前で、清雅と焔は既に戦闘モードに入っていた。
確かに、精鋭軍としては数が少なかった。
もし精鋭軍が攻めてきたら、とてもじゃないが叶わない。それが蒼国の現状だ。
それに問題はもう一つ。
拓海である。
玄武として未だ未熟、剣としても未熟、それをお前も来いと清雅に引っ張られて来た。
例によって例の如く、実戦で慣れろである。
戦場にいれば、嫌がおうにでも戦わざるを得なくなる。10歳から戦場育ちの清雅は、それを実証済みだ。
「来た!」
焔が声を放った瞬間、黒抄は向かってきた。
カン!
「久しぶりだな、蒼王」
「わざわざ雁首揃えて御丁寧な事だぜ、義勝」
「黒王さまの命令でな」
清雅と義勝は、互角の勝負だった。
焔は、闇己と対戦しそれも互角だった。
「タクちゃん、大丈夫?」
「はい…何とか…」
再び甲高い金属音に、火花が散る。
しかし、数からして不利にある。
ここに、星宿と狼靖はいない。
「蒼王、ドラゴンの遺産は何処にある?」
「やはり、そっちか」
「知っているようだな」
「さぁな」
激しくぶつかり合う剣は、どちらも引かない。
「清雅さまっ」
敵を薙ぎ払い、清雅の背にピタリと男が立つ。
「随分とタイミングがいいな、星宿」
「吾も、この偶然だけは好きではないのですが」
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い2 作家名:斑鳩青藍