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覇王伝__蒼剣の舞い2

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                  2
 その人物は、一路蒼国を目指していた。
 頭から深く頭巾を被り、右手で杖を突き、蒼国へ通じる東海道を真っ直ぐに。
 「ここまで追ってくるとな」
 目の前にすっと立ちはだかる人影に、頭巾から覗いた唇が吊り上がる。
 「大人しく吐いてもらおうか、ドクトール・ヴィラー卿」
 「嫌と云えばどうする?」
 「貴方は、そんなに愚かな方ではないと思っていますよ」
 カン! と宙で火花が散る。
 彼を襲ってきたのは、黒抄の人間だった。
 「黒狼さまも必死と云う事か。覇王陛下と共に行動を共にしてきた者を片っ端から襲い、ドラゴンの遺産の在処を問いつめる。そんな事で、覇王になれはしないというに」
 「黙れっ」
 ヴィラー卿の剣は、刺客の剣を軽々と交わした。
 だが、多勢に無勢という言葉がある。
 嘗ての勇将は、肩でゼイゼイと荒く息をし、取り囲む刺客に徐々に間合いを詰められていた。
 「くっ…」
 「我々の勝ちですな」
 刺客のリーダーが、ニヤリと唇を緩めた。

 その頃、蒼国王都郊外を一頭の馬が歩を進めていた。
 騎乗の主は、銀髪に碧眼の美青年だ。
 ___妙だな。
 青年は、周囲を見渡し眉を潜めた。
 あれほどしつこくやって来ていた黒抄の刺客を、ここ一月見ていない。
 諦めたか、それとも___。
 いや、そんな筈はないのだが。
 青年は、彼らの狙いを嫌と云うほど知っている。何故なら、彼らの欲しいものはこの蒼国にあるのだから。
 絶対に、諦めてはいない。
 彼の勘は、そう告げている。
 だが襲ってこないと云う事は、ある事も教えてくれた。
 ___ドラゴンの遺産か。
 つい一月前まで、その名を知ることのなかった彼だが、無関係とも云ってられなくなった。一人の男の命運を左右しようとしているのだ。彼にとっては頼もしき仲間であり、主君であり、そしてこの四国の覇王たる器の人物。
 手綱を握る手に思わず力が籠もったその時、金属音が聞こえた。
 ___あの方は…。
 「ドクトールさまっ!?」
 「…星宿か?」
 星宿は馬から飛び降り、抜剣して刺客たちを薙ぎ払った。
 「ちっ…、白虎か。引けッ!!」
 勝算がないと見て、刺客たちは身を翻した。
 「大丈夫ですか!?ドクトール・ヴィラー公爵閣下」