覇王伝__蒼剣の舞い2
第8話 天狼星と狼靖の覚悟
1
パカッと、薪を割る音が茜の空に響く。
「手伝いましょうか?」
「いえ、大丈夫です。慣れてますから」
首に巻いたタオルで汗を拭きながら、拓海は再び斧を振り下ろす。
「悩み事なら相談に乗りますよ」
「今度ばかりは解決できそうもないです」
「おや」
「四獣聖にも、解決できないでしょうね」
「それじゃ吾にも無理ですね」
尚武は、いつもと変わらずにっこりと笑う。
そう、四獣聖にもどうする事もできない。四国最強を謳う四剣士にも、できない事はある。ドラゴンの遺産の謎は、覇王の心臓にあり、それを射抜くしかないなど。
____できるわけないじゃないか…!
悔しさと憤りで、拓海の心は乱れまくった。
「___雑念は捨てろ、と云わなかったか?」
派手に割れる薪の音に、男の声が重なる。
「……っ」
「まったく、それじゃ玄武は未だだな。見ろ、まともに割れてるの数えるしかねぇ」
「薪割りに玄武と関係が?」
「細かいことは気にすんな。足腰の鍛錬にはなるぜ」
いつもとかわらず毒舌の男は、ふらりとやってきてはふらりと去っていく。
まるで、拓海の心の中を見透かしたように。
気にするなと。
「あれでも、拓海さんを励ましているんですよ清雅さまは」
「ええ、理解ってます」
「泣かなくなりましたね」
泣かないと決めたのだ。
最も過酷で、これからも辛い道を行くのは彼なのだ。彼を支えるのは同情ではなく、哀れみでもない。強い精神と、四国への思い。
____僕は、清雅さまを殺させたりしないっ!!
薪を割る音は、その後も高らかに鳴り響いた。
その同じ空を、黒抄精鋭と行動を共にしていた須黒が見上げた。
「須黒さま、理解りましてございます」
「漸く見つけたか」
「はい、紅華国領内にいるとの事」
「厄介だな。蒼国だけならともかく、紅華国ともなると。考えたものだ」
須黒は、自虐的な笑みを浮かべた。
彼の使命は、黒抄に渡る前に遺産を奪う事。
その一つだと云う天狼星を所持した男が、紅華に逃げ込んでいるとの報告である。
「須黒さま」
「今、紅華を刺激するわけにはいかん。あの紅王さまが、どうされるか…だな」
須黒は、クククと不適な笑みを放った。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い2 作家名:斑鳩青藍