覇王伝__蒼剣の舞い2
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____天より下りし神龍、ここに印す。覇王たる___、に秘したり。
壁画の横に刻まれた古い文字。
「やっぱり変ですよ」
「落ち着いて、タクちゃん」
蒼国王城に戻り、尚武の煎れる紅茶を前に拓海が立ち上がった。
「壁画と合ってないじゃないですか?あの龍は、上を向かっていましたよ。それがどうして、天より下りしになるんですか?」
「だから落ち着いてって」
焔に宥められ、拓海は紅茶を啜った。
「清雅さま、他には?」
「よしてくれよ。これ以上の面倒はたくさんだ。ねぇよ、何も。蒼剣に聞け」
「答えてくれるなら、ね」
「てめぇ…」
「まぁまぁ、お菓子はどうです?手作りですよ」
「尚武の手作り?」
さっそくと摘む焔がクッキーを口に運ぶ。
「いえ、拓海さんです。これまでにも召し上がったもの含めて」
「………」
沈黙する事数分。
意外だったのだろう。味も形もプロだ。
拓海は、これまで父、狼靖と二人暮らしで自然と剣より先に料理を覚え、茶菓子まで覚えてしまった。意識して作ったのではなく、気がついたら調理場で粉をこねている自分がいて、途中で放棄する訳にもいかずその時に尚武に見つかってしまい、茶菓子として出そうとなったのだ。習慣と云うのは恐ろしいものである。
「あの……」
「美味いよ。タクちゃん」
「ありがとうございます…」
「____その蒼剣、ここ暫く光りませんな」
和やかムードを、狼靖の言葉が再び緊張状態に戻す。
蒼剣が目覚めたのは二度。
七年前の清雅が蒼王となった時と、白碧との蒼の谷での初戦。
「狼靖、何がいいたい?」
「蒼剣に聞けと云われたのは、貴方ではありませんか?清雅さま。元々意思をもつ剣です。態と黙しているとしたら語る相手は一人でしょう」
蒼剣が自ら決めた主に。
清雅は、軽く舌打ちをして奥へ向かった。
扉の前で、男が立っている。
銀髪に銀の仮面。
「瑠邑__」
呼ばれて、瑠邑の肩が跳ね上がる。
「これは、陛下。みなさまもお揃いで」
「ここで何をしている?」
「いえ、妙な物音がしましたので気になりまして…、どうやら気の所為のようでした」
「それはよかったな」
すっと横を通る瑠邑に、清雅は口元を緩める。
「侵入者でも来たんでしょうか?」
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い2 作家名:斑鳩青藍