覇王伝__蒼剣の舞い2
拓海は、てっきり焔が文句を云うかと思った。
「___嫌な事、思い出したよ」
赤い髪を掻き上げながら、彼はちらっと清雅を見た。
「焔さま?」
「同じもの、だったんだね」
「あの…何の事です?」
「…タクちゃん、見てないわけ?」
まったく理解らない。
「遺跡なら…」
「そうじゃなくて」
「焔、俺は今更隠す気はねぇ。そいつだって見る機会はあったぜ」
「やっぱり」
「あの…理解るように云ってください。焔さま、この壁画いつ見たんですか?」
「壁画は今初めて見たよ。龍なら一度前に見てるけど。これと同じ形のやつ。といってもはっきりとは見てない。これも今同じものだって理解ったし」
「それがどうして僕が見ることができるんですか?」
「___あるんだよ、セイちゃんの背中に」
「え…」
急に真面目な顔をした焔が、記憶を呼び起こす。
『セイちゃん、何で髪伸ばしてるのさぁ。うざくない?』
『面倒なだけだ』
焔が、清雅にまとわりつくのは今に始まった事ではない。焔は清雅が蒼国国主となってからも相変わらずくっついてきた。
思えば清雅が髪を伸ばし始めたのは、その時からだ。
そしてある時、偶然にも上半身裸でいる清雅で部屋にいた清雅を見るのである。
その背に龍を浮かべて。
以後、焔は背中の龍にも髪にも触れる事はなかった。
ここを脱出する時、清雅は上半身裸だった。故に拓海には見る事が可能だと云うのだ。
しかしそんな余裕はなかった上に、腰まで覆う清雅の髪は龍を見えなくしていた。
「あ…」
それであの時。
壁画を見る、清雅の厳しい表情の意味。
同じものを、自分の背にあるからなのだと拓海は悟った。
「恐らく偶然ではないでしょう。七年前、清雅さまの背に現れた龍は」
「どういう事ですか?星宿さま」
「そこまでは…。ただ、同時に蒼剣も目覚めているとなると、遺産と蒼剣、更に清雅さまは無関係ではないかも知れないと思うのだ」
「そうなると…」
「益々、黒抄と白碧の目が厳しくなるって事」
やっぱりそうなるのか、と拓海は肩を落とした。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い2 作家名:斑鳩青藍