覇王伝__蒼剣の舞い2
5
荒涼とした、赤茶けた大地。
蒼国と紅華国の間にある、無国籍地帯に広がる通称“赤の谷”。
三百年前、龍が天から降りたと云われる大地はその衝撃で裂け谷となり、先住民が遺跡を建てた。
その遺跡は、もう誰もいない。
「静かですね」
「ええ、あの後白い男たちも来なくなりました」
遺跡の護り人の子孫だと云う少年ハオンと、彼らはもう一度赤の谷に降りた。
「生き埋めになりたくない」
珍しく弱気な焔が、呟いた。
「だったら来なくていいんだぜ」
「…理解ったよ。もう、数日会わない間に意地悪になったね、セイちゃん」
焔のぼやきに、拓海は思わず吹いた。
前を見えば、広い背中がある。
大丈夫___。
いつも勇気と自信、安心を与えてくれる清雅の背中。
遺跡は、辛うじてその姿を保っているといった感じだ。
清雅救出の時に、拓海の玄武の能力は制御出来ずに遺跡の中で暴発した。お陰で中は、今にも崩れかねない危うさがある。
しかも、今度は四獣聖全員揃っていた。
精神状態で変化する四本の剣が、この中で発動したらどうなるか。
「やはり、何もありませんね…」
「僕も父から詳しく聞かされてなくて…」
申し訳なさそうに頭を掻くハオンを、拓海は宥めた。
『___遺跡に行く』
そう清雅から彼らが聞いたのは、彼らが赤の谷から蒼国に帰って間もなくの事だ。
___何もないんじゃなくて、あるんだ。ここには。
遺産と聞けば大抵はそのものを想像する。ガランとした遺跡内部、石壁と煉瓦の入り組んだ通路、遺産の影も形も見えないその空間。
白い影たちには、ここは無駄と映ったのだろう。故に、蒼剣を使って探そうとした。
ここが破壊される事になるとは計算に入れずに。
そうならなかったのは、ある意味よかったかも知れない。四獣聖の力でさえ壊れるこの遺跡が蒼剣が目覚めれば、遺産は埋もれてしまうのだから。
拓海は、視線を清雅に向けた。
あの時、暴発した玄武の力を制御したのは彼だと。
でなければ、本当に生き埋めとなり、遺跡は永遠に埋もれる。
「あれだ」
清雅は、すっと指を指す。
天へ駆け上がる龍の壁画を。
壁画を見たそれぞれの反応は、同じだった。
驚きもせず、まるでそこにあるのが当然という顔だった。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い2 作家名:斑鳩青藍