覇王伝__蒼剣の舞い2
黒王は、皮肉たっぷりにそして気にいらげに唇を歪めた。
彼の憎悪は、相当なものだ。
プライドが高く野心家の黒王・黒狼___覇王家の後継者と自負していた彼にとって、蒼剣が自分ではなく清雅に反応した事が憎悪拡大に火をつけた。
寧ろ、彼の怒りは蒼剣に向けられていると云っても過言ではない。
同じ父親の血を引いているとは云え、覇王たる器にあるのはこの自分だ。剣の才も負けてはいない。なのに何故___。
既に齢五十近く、前覇王は四十前で覇王となったと云うに。
「陛下、必ずや御前に」
「___ところで、例の方はどうなっている?」
「『ドラゴンの遺産』でございますか?」
「この四国に埋まっている___そうだったな?」
黒王の問いは、背後に向けられていた。
「はい、その通りでございます」
「陛下…その男は…」
白銀の甲冑に身を包む男に、闇己、義勝が蒼白になる。
「御二人には初めてお目にかかる。白碧精鋭軍・須黒と申し上げる」
「な…」
「吾が王が、黒王さまをお助けしたいと吾を。覇王になるのは黒王さまだと」
「ふふ、聖連がそう申したか…ふふ…」
「___はい、黒王陛下」
満足げに笑う黒王を、須黒は視線だけを上げ冷ややかに見つめていた。
黒王がドラゴンの遺産の存在を知ったのは、数ヶ月前になる。
領土拡大に黒抄近郊を攻めていた折り、捕獲した男が云ったのだ。
___お前たちに、ドラゴンの遺産は開けられぬ。覇王しか開けられぬ。
その在処を問いただしたが、男はついにそれを云う事はなかった。
だが彼は、聖連もその遺産を狙っている事を知らない。覇王の座を譲るつもりもない事も。
___白王さまの云うとおり単純な方だ。
須黒は、ニッと唇をそっと歪め踵を鳴らして頭を下げた。
マントを翻し出て行く彼を、闇己、義勝は気にいらない。
「陛下、あの男信用なさっては…」
「そうです。いくら義弟・白王さまの配下とはいえ、白碧とは…」
「理解っている。吾が聖連を心から信じていると思うか?あやつ、遺産の事を知っていたのだ。白王になる前からな。それほど遺産は重要だと云う事だ」
「でしたら…」
「あの男に、遺産は渡すな。お前たち二人で___よいな?」
「畏まりましてございます」
二人同時に呼んだ訳を理解して、闇己と義勝は共に深く頭を下げた。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い2 作家名:斑鳩青藍