覇王伝__蒼剣の舞い2
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コツコツと靴音が響く。
顔は右半分を金髪で隠し、それでも痛々しくそこは包帯に覆われている。
赤の谷で、屈辱的失敗を強いられた白い影首領・日影はゆっくりと聖連の前に跪いた。
「___どうやら、四獣聖を侮っていたようだね」
「申し訳ございません…」
「まさか、狼靖の息子に玄武の素質があるとは…ふふ」
「聖連さま、もう一度…」
「無駄だ。未熟とはいえ玄武の能力であれだ。これ以上我々の数を減らしたくはない。お前だってその傷、あの時のものだろう。そこに四獣聖が加わればどうなるか、この作戦は無謀すぎた。他の手を考えなくてはね」
聖連は、鏡を撫でながら口元を綻ばせている。
そんな日影と入れ替わるように、須黒が入ってくる。
「___見つかったのか?」
「黒抄も、探しているようでございます」
「天狼星を?」
「如何いたしましょうか?」
「黒抄より先に見つけ出そうと思ったが、まぁいい。須黒、それとなく探れ。奴らに見つけさせて、黒王に渡る前に奪え。ドラゴンの遺産の鍵となる天狼星を」
「御命令通りに」
マントを翻し、須黒は踵を返した。
____ドラゴンの遺産。
聖連がその名を初めて聞いたのは、母の口からだった。
異能の民であり、その長の血統を引く姫だという母は、まるで暗示のように聖連に云った。ドラゴンの遺産を手に入れよ、吾が一族の悲願を叶えよと。
___それさえあれば、覇王になれる。
聖連の野望に火がついたのは、蒼剣が目覚めた事だ。
父・前覇王以降一度も目覚めることのなかった蒼剣。更に前覇王は、ドラゴンの遺産の在処を印すものを隠したと鏡が告げた。
天狼星は、その一部。
城を経つ須黒たちを城壁で見下ろしながら、日影は唇を噛み締めた。
___この吾が今度こそ…!
拳を握り締め、日影の姿はすっと空間に溶けた。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い2 作家名:斑鳩青藍