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トモの世界

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「神輿を担ぐのは君たちの仕事ではない。祭りの会場の目星をつけたり、これから祭りだというのに会場に居座っている邪魔者を消すのが君たちの仕事だな」
 誰も返事をしなかった。いまさら自分たちの存在理由を述べられたところで、返答のしようがない。
「戦車には戦車を投入する。地上施設をアウトレンジして破壊するのは八九式支援戦闘機や六四式戦闘爆撃機の仕事だ。戦場に身一つで乗り込んでいく君たちは、正面から敵の拠点に乗り込んでいくような真似はしまい」
 もちろんだ。
「今回も敵の拠点は攻撃しない。後方を攪乱する目的で小規模の目標を叩く」
 南波が横で小さくつぶやいた。「わかってるよ、毎度のことだ」。
「敷花と風連を奪還し、君たちの活躍で発電所は確保できた。だが、洋上のハイドレート採掘基地を我が方は失い、国境に近い縫高町の港は廃墟になった。風連奪還戦に従事したのは、南波少尉のチームDか」
 南波は右手を肩の高さに挙げて答礼。
「作戦詳細はチームごとにこの後説明する。ここでは作戦そのものの概要の説明だけにとどめるが、いいか」
 異議なし。あるわけもない。
「今回は、物理的な敵拠点そのものは破壊しない。先ほど言ったとおりだ。具体的には、敵の人的要素を分断する」
 南波がまたつぶやく。「全然具体的じゃないじゃねえか」。
「戦車部隊を動かすのは何か。……瀬里沢少尉」
 チームAリーダー、瀬里沢少尉をライトペンで指し、少佐が問う。
「燃料」
 ぶっきらぼうに瀬里沢が答える。
「私は『人的要素』と言ったはずだ」
 少佐は瀬里沢の人を食ったような口調に、気分を害したふりで対抗した。声音は出来の悪い生徒を諌めるような色を持っていたが、表情は全く変わっていない。
「俺たちと同じ、人間ですよ。敵の主力戦車なら、一両あたり四人。乗組員(クルー)だけならね」
「乗組員がいなければ、戦車は動かないか」
「予備員(バックアップ)がいくらでも控えているでしょう。ウチらも同じだ」
「そうだな。ではバックアップを消したらどうなる」
「当面は、戦力にならないでしょうよ。燃料があっても、動かす人間がいなければ、戦車なんてクズ鉄だ」
「そうだ」
「なんですか、これは。初心者向けのクイズですか。駐屯地公開行事でもあるんですか」
「瀬里沢少尉、口が過ぎる」
 樋泉がたしなめる。だが、瀬里沢は悪びれることもない。
「さっさと具体的な作戦概要とやらを説明してもらえませんかね。俺たちは前線に行きたくてたまらないんだ。ヘリを待たせてるんですよ」
 それはウソだが、私も南波少尉も同じ気持ちだろう。情報担当のこの少佐は、瀬里沢以上に人を食ったようなブリーフィングを行っている。
「戦車部隊であれば、乗組員を消す。戦闘機部隊であれば、パイロットを消す。それが今回の作戦だ」
 口調はそのまま、気分を害した風もなく、大別刈少佐が言う。
「今までもやってきました」
 南波が挙手してそういった。こちらは少佐を揶揄するような口調ではなかった。ただ、事実を述べただけ。
「間接的に、だ、南波少尉。あくまでも私たちの目標は、敵の戦車部隊であり、戦闘機部隊だった。君は、敵の戦車を攻撃するとき、乗組員を殺そうと意識しながら対戦車ロケットの発射レリーズを引くかね」
「いえ。そんなことを考える余裕もありません」
 皮肉をこめた返答だったろうが、少佐は南波にちらりと視線を向けただけで相手にしなかった。
「敵が敵たる所以(ゆえん)は、敵を構成しているのが敵軍……北方会議同盟連邦軍の軍人と兵隊であるということだ。その集合体が戦力を持つ。正面装備を操る最前線の兵士も、兵站を担当する後方支援部隊も同じだ。軍隊は人が動かす。国家が動かすのではない。私たちはときおり、そのことを忘れてしまう」
 少佐は講義の口調だ。言い慣れているのだろう。だから私にはそれがただの言葉遊びに聞こえる。
「で、何をすればいいんですか、我々は」
 静かに聞いていたチームBの野間少尉が言う。
「四チームそれぞれで、敵の人的リソースを破壊する」
「具体的には」
「チーム別に説明する」
「その衛星画像は何ですか」
 野間少尉の言葉には直接答えず、少佐は振り返り、ライトペンでマーキングを行う。
「同盟軍の地上部隊は、北緯五十度線……国境からわずかに北側へ後退している。敷花から五十キロ足らずの場所に、兵站基地を設けた様子だ。旅団規模の地上部隊が再編成されつつある。まずは、ここだ」
 衛星画像にポインターが円を描く。五十度線は東西に椛武戸のほぼ中央部で帝国と北方会議同盟連邦を区切る。だが、言い古された言葉のように、国境線は見えない。衛星画像で見ても、そこには深い森林や平野、そして山地が見てとれるだけだ。小さな町が点在しているが、衛星画像を見ただけでは、それが帝国の町なのか、同盟の町なのかの判別もできない。もともと先住民(イルワク)が広く住んでいた土地で、帝国も同盟もそういう意味ではあとから押し入ってきた存在だ。陣取り合戦を北の果ての南北に長いこの島で繰り広げているにすぎない。
「ここに、同盟空軍の前線基地がある。もともとは小さな空港があった場所だ。敵戦闘機部隊が二個飛行隊。高射部隊の存在も確認されている。空港設備には傷をつけたくない。ここだ」
 ポインターが海岸近くの平野部で円を描いた。画像がズームされ、北東から南西へ一本の滑走路があるのが確認できる。近傍には集落。およそ都市とは呼べないほどに小さな規模の。あとは森。
「敵水上部隊に関しては、洋上で展開しているから、我々陸軍の管轄ではない。当面は、今説明した二つのポイントだ」
 ズームしていた画像が元の縮尺に戻った。南波がつぶやく。「全然点(ポイント)になってないじぇねえか」。ごもっとも。
「ようするに、敵の地上部隊と空軍勢力の戦力をどうにかしようってことですか」
 瀬里沢がぞんざいな言い方をした。
「ようするに、そういうことだ」
 少佐が答えた。
「どうするんです。駐機している戦闘機をつぶすんなら、それこそ空軍に頼めばいい。滑走路に穴を開けなくても、飛行機だけ壊してくれるでしょう。八九式なら」
 瀬里沢。やる気があるのかないのかわからない言い方で応えた。
「さっきも言ったとおりだ。敵の前線基地の正面ゲートから鬨の声をあげて突入するような作戦は、君たちには似合わないだろうし、やらないだろう。目標は、戦闘機を飛ばすパイロットだ。敵パイロットを消してもらう」
 深いため息をついたのは南波少尉だ。けっきょくそういう仕事だ。俺たちは首狩り部隊だ。
「敵勢力の分布から言って、四チーム中三チームが敵地上部隊、一チームを敵空軍戦力へ振り分ける」
「一チームですか。バックアップなしか」
 ずっと黙っていたチームCの柄垣が言った。独り言に近い音量で。
「君らに予備員(バックアップ)が必要か」
 少佐が鋭い視線を柄垣に向けた。
「おまかせします」
 柄垣は礼を失しない程度の不服をにじませ、短く言った。
「チーム割はこの後、知らせる。全員、この場で待機」
 話は終わりだ。全員が素早く立ち上がり、敬礼。少佐は小さく答礼。
「よし、チーム割と詳細は俺から説明する」
作品名:トモの世界 作家名:能勢恭介