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トモの世界

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「素質がいいのさ。ここの連中は。生半可な帝国軍兵士より、足腰の鍛え方が違う。子供のころから、本物のライフルの便利さと怖さをしっかり教育されているんだ。陸軍の教育隊の助教の苦労は、ここにはないってことだ」
「そいつはいいね。……なあ、俺たちはあんたらの村を襲撃しに来たわけじゃない。あんたも分かっただろう。礼儀はわきまえてる。村に案内してくれないか。話したいことがある」
「話す? 警告に来たと、この姉さんは言ったぜ」
「話さないと警告もできない。とりあえず銃を降ろしちゃくれないか。ケツの居心地が悪い」
 南波が言うと、即座にショウキは銃を降ろした。その動きに呼応して、ほかの三人も銃を降ろす。だが、ローレディの体勢だ。いつでも据銃し、私たちを斃せるように。
「村の連中はどうしたんだ。誰もいないようだが。あんたらみたいに全員が気配を消してるのか」
 南波は頭の後ろで手を組んだまま言う。
「少尉殿。答える必要はない」
「なにがあった」
「その質問にも答える義務はない」
「なにかあるのか」
「質問攻めだな。あんたらこそ戦闘ヘリまで連れて何しに来たんだ」
「俺たちは帰る途中だ。その姉さんが……入地准尉がどうしても村に寄り道したいって駄々をこねるから、仕方なく来たんだ」
 蓮見も私も動かない。私は別の危険性を考えていた。当然、ショウキが指摘した戦闘ヘリコプターは私たちの状況をモニタリングしている。異常を感知した彼らは、南波の指示がなくても発砲する可能性がある。なにせ友軍が武装勢力に銃を突きつけられている状態なのだ。
「ショウキ、その戦闘ヘリに連絡を入れさせてくれ」
 たまらず私は言う。
「私たちが取り囲まれているこの状態を、パイロットが勘ぐる。発砲されたらひとたまりもない」
「立場違えば、あんたも変わるもんだな」
「皮肉か」
「そう聞こえたらすまないな。あんたに気を遣う余裕もこっちにはないんだ。……連絡するなら勝手にするがいい」
「南波少尉、頼む」
「モールリーダーからレラフライト。こちら異常なし。くりかえす。こちらは異常なし。マスターアームスイッチを切ってくれ。撃つなよ、交渉中だ」
『レラフライトリーダーからモールリーダー。大丈夫か』
「大丈夫だ。すぐ戻る。待っててくれ」
『わかった』
「これでいいか、姉さん」
「ありがとう。……ショウキ、とりあえず、手を降ろしていいか」
 一度、二度、小さくうなずくショウキを見て、私はそっと、上げたときと同じようにそっと手を降ろす。南波、蓮見も私にならう。
「ずいぶん気が立っている……何があったんだ」
「いきなり撃たれなかっただけでも感謝しろ。准尉殿。俺たちはふだんの狩りで、言葉の通じない連中を相手にしてるんだ。言葉は通じないが、殺気は俺たち以上に感じる奴らだ。銃を構えて『動くな』なんてしばらく口にしたこともなかった」
「私たちの接近を感じて、その装備をしたわけじゃないんだろう」
「そうだ」
「じゃあどうして」
「村に行くか。誰もいないが」
「シカイは、」
「長はみんなを連れて森の中にいる。海側だ」
「女子供もか」
「そうだ。……南側にはセムピがいる」
「おい、なんのことだ。姉さん、説明しろ」
「村は何だか知らないが臨戦態勢だ。そういうことだな、ショウキ」
「そういうことだ」
「理由を訊いたら教えてくれるか」
「同盟軍が動いているからだ」
「なんだって」
 南波が振り向いた。
「少なくとも連隊規模だ。あの森の向こうに半日行けば国道がある。昨日の朝だ。俺が見つけた」
「どっちへ行った」
「どっち?」
「北か南かってことだ」
「どっちでもない。陣地を構築している」
「バカな」
「なにがバカだ。バカなのはあんたらも同じだ。さっきの音はなんだ? 空が割れたのかと思った」
 プラントが自滅したときのあの音のことだ。
「昨日、長にすぐ話をした。……守りを固めるように言われた。銃を持てる人間は。銃を持てない連中は、長が率いて、村から離れた」
「敵が来るのか」
 南波が問う。鋭く。
「敵ってなんだ。同盟軍のことか。それとも帝国軍のことか」
「同盟軍に決まっている」
「俺たちにしてみたらどっちも同じなんだよ。味方はイルワクだけだ。味方でなければ敵だ」
「バカな」
「また言ったな。なにがバカだ。ここは同盟の領地かもしれんが、勝手に線を引いたのは連中に帝国だ。イルワクはずっとここに根を張っている」
「お前だって帝国国民じゃないか」
「元、だ。俺に帰る国はない。ここが俺の居場所だ」
 ショウキは強く言う。言い聞かせるように。俺の居場所だ、そう語気を強くしたとき、眉間に皺がよるほどに目を固く閉じて。思いを断ち切るかのように。
「俺は、この村に助けられたんだ。恩義がある……だからあんたらに手は出さない。一度は同じ村の空気を吸った女の子も混じってるしな」
 蓮見のことを言ったのかと思ったが、ショウキは私を向いて言った。
「女の子?」
 南波が返す。
「俺の目の前に立っている勇ましい出で立ちの女の子だ。……後ろのはよく知らん」
 蓮見を見る。中立的な表情……険しくもなく、笑うでもなく、無表情に近い、複雑な顔。
「あんた、名前はなんて言ったか」
 その蓮見にショウキが声をかける。
「蓮見」
 蓮見が応える。ぶっきらぼうに。
「名前を聞いたんだ」
「ユハ」
「どんな字を書く」
「優しい、羽根」
「いい名前だ。大事にしろ。階級はなんだ」
「准尉」
「あ? 准尉だって? 少尉殿に准尉殿が二人か。あんたら、ハケンか?」
「今頃気づいたの」
 蓮見が口元だけ表情を崩した。
「兵隊が一人もいない部隊だもんな。……そういうことか」
「どういうことだ」
 南波が問う。
「総攻撃でも始める気か。言っておくが、このあたりに軍事的価値なんて一つもないぜ」
「そう願いたい」
「願う必要もない。あるのは森と村と、草っぱらだけだ」
「同盟の連中は、その森の下にいろいろこしらえてるようだが」
 南波。
「そんなものはこのあたりにはない。少なくとも七年前からは」
「ならいいんだ。確かに脅威判定はレベル二以下だ」
「あんたのCIDSは脅威判定もするのか」
「これがするんじゃない。判定は本部が行う」
「時代は進んだな」
「多少ね」
「とにかく、帰れ。あんたらがいるだけで、利敵行為だと判断されたら、同盟軍に襲われる」
「襲われることを前提にしてないか」
 南波が四人を……イルワクの装備を見渡して言う。
「悲観的に準備して楽観的に待っているだけだ」
「ショウキさんよ。一緒に国に帰らないか。あんたはまだ戦える」
「もういい」
「あんたの立場は俺が保証するよ。なんなら、俺のチームにスカウトしてもいい」
「脱走兵なんだろう、俺は」
「気が変わった。いま変わった」
「断るよ。俺はようやく長に行動を任された。七年かかったんだ。イルワクとして認められるまで」
 ショウキの鋭い眼は私を射るようにとらえたままだ。
「来る者は拒まないんじゃないのか。私と蓮見を迎えたように」
 その視線を受けながら私が言う。
「来る者は。だが、家族になれるかどうかは別だ。一生客人で朽ち果てた奴らも大勢いる」
「そいつらの装備か」
作品名:トモの世界 作家名:能勢恭介