ふれる手…ダレ?
「カナブンっていうんだぞ」
その体の光沢が金属のようなところからそんなふうに呼ばれるようになったのかな。
この前のクリスマスプレゼントで買って貰った調合金のロボットのような色だった。
「触ってごらん。大丈夫、噛まないから」
また、僕は緊張する。どうしても手が出せない。
ぱぱに 勇気があるところを見せたいけれど、気持ちがどんどん萎えていく。
「ぱぱが 掴んで」
やっと、言えたことは その言葉くらいだ。
「これも ダメかぁ。圭のところに遊びに来てくれたんだぞ」
「怖いもん」
「そっか、ぱぱが いるじゃないか。ぱぱと遊ぶの楽しいだろ?」
僕は、嘘はなしで 大きく頷いた。
「そっか。ぱぱも 圭と遊ぶの とっても楽しいぞ。これに触れたら もっと楽しいこと増えるのにな」
どうして、こんな虫に触れないといけないのか、ぱぱの意地悪にしか聞こえなかった。
「虫捕りしたり、おばあちゃんとこの田舎で魚釣りしたり、テント張ってキャンプしたり、大きくなる圭と ぱぱは、いっぱい遊びたいんだ。なっ、男同士、これからも仲良くしような」
ぱぱが、僕にお願いをしてる。いつも僕のお願いを聞いてくれるぱぱが頼んでる。
「いっぱい遊んでくれる?」
「ああ、ぱぱと遊んでくれよ」
「ぱぱ、ちゃんと持っててよ」
ぱぱは、麦わら帽子にしっかり脚を掛けているカナブンを指で掴むと、僕のほうへと差し出した。
まだ幼い僕でも こいつには触れるためには…とその形状を眺めた。
体を持たれたカナブンは、ギザギザの足を動かし抵抗していた。その前に指を出してみた。
柔らかなボクの指先を がっちりとギザギザの足で捕まえてくる。
ぱぱは、何も言わず、いつもの優しい目で 僕を見守っていてくれるようだ。
大好きなぱぱとの約束。果たせるのかなぁと不安で 虫も怖くて、泣けちゃいそうだ。
それなのに、カナブンは、がっしり僕の指に捕まろうとする。
「痛いよ」
痛いけど、ボクを頼っている気がした。
ぱぱは、カナブンの体を離した。もう、僕の指だけにとまっている。
そして、ボクの指の先端まで よじ登ると、カシャンと薄翅を広げて震わせた。
僕の持ってるロボットは、僕が動かさないといけないけれど、カナブンは、勝手に変形をして見せた。けっこう、かっこいいなと思った。