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Last Message

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小学生になるまで、私は母と母方の祖母の3人で
靴屋の離れの納屋のようなところを借りて住んでいた。

6畳一間に、二段ベットや子供用のカラフルな本棚
3本足の白黒テレビ、トイレは汲み取り式で
用を足すたび落ちそうでいつも怖がっていた。

母は私を養うため水商売をしていた。
大家の靴屋の夫婦は、私を不憫がり
「みーたん、みーたん」と、とにかく可愛がってくれた。

おじさんの靴屋は通りに面し、ガラス戸を開くと
小さな革張りの長椅子があり、向かいのカウンターで
おじさんが靴の修理をする姿を
いつも、おとなしくジーッと眺めていた。
黄色い靴用のゴムの匂いはツンとして嫌いだったが
おじさんが席を外した隙に、指先にとって
乾くまで息を吹きかけた。

私は、母の三面鏡が大好きだった。
三面鏡を何度も閉じたり、開けたりして
自分の横顔を映して遊んだ。
引き出しを開けると、
匂い袋の香りがプーンと漂う。
私はその匂い袋が大好きで鼻先にくっつけて
大きく息を吸う。

母に隠れては、口紅やおしろいを
顔中に塗りたくったが、何故だろう、この悪戯を
知っていたはずなのに母に怒られたことは
一度もなかった。

日が暮れる頃、夜の仕事に出掛けるため
母は化粧を始める。
綺麗に着飾った母は、迎えに来たタクシーに乗り込む。
毎日のことなのに、母を追いかけては大泣きした。
もう帰ってこないと思っていたのだろうか…。

夜は長くて、とても暗くて恐怖だった。
夕陽の中で、山の谷間にダイダイ色した陽が落ちるまで
おばあちゃんは、大泣きしている私をおんぶして
泣き疲れて眠るまで子守唄を聞かせてくれた。


靴屋の離れから少し離れた水洗トイレのアパートに引っ越したのは
母に新しい男ができたからだ。

作品名:Last Message 作家名:momo