Last Message
子供の頃、いくつだったかもう忘れたが、
その日と同じような陽が傾きかけたある日の午後、
アパートの階段に腰掛けてるとお父ちゃんがやってきた。
「お父ちゃん!」
母と父と3人で仲良く過ごした記憶は一つもない。
もしかしたら、記憶がないのではなく、
過ごしたことがないのかもしれない。
お父ちゃんに連れられ駅前のおもちゃ屋に行き、
子供なら誰でも欲しがる自転車をポンと買ってもらった。
決してねだったわけではない。
私は嬉しくて嬉しくて学校の校庭をグルグル走った。
校庭にいた子供たちは
「わぁ〜すごい! 乗らして乗らして!」と
自転車の後を追いかけまわし、私は偉そうに順番に並ばせて
5mくらいずつ走らせてあげた。
皆が帰った後も日が暮れるまで
学校の校庭で自転車を乗りまわしていた。
お父ちゃんがいついなくなったのかは記憶にない、
自転車に乗ったまま鉄棒に顔から激突し
歯がグラグラになったところで、
鬼のような顔をした母がやってきて自転車は返品されることになった。
鉄棒にぶつかったからではない、離婚した父が買い与えたものだったからだ。
私は大泣きした。
天国から地獄にあっという間に堕ちる気持ちと
鉄のような血の味と、塩のような涙の味と
そして、言葉に現せない気持ちのあることを
この時、知った。
私はそれから先も いつだって泣いていた。
作品名:Last Message 作家名:momo