After Tragedy5~キュオネの祈り(後編)~
「あんまり遠くで話すとデメテル起こしちゃうかなって思って。」
小声で言うと、僕のスペースを開けて、布団を捲る。
(ここに入れと言うのか…。)
キュオネは、戸惑う僕を不思議そうに眺め、思い付いたように言った。
「入って?」
「伝わってはいるけど、それは…。」
きょっとんとしたキュオネを前に僕は戸惑う。
「風邪、引いちゃうよ?」
「…。」
その心配そうな表情がレーニスに似ていたので、僕は諦める。仕方無く、彼女の横に寝そべると、キュオネは布団を僕に被せた。
自分のマザコンっぷりが悲しい。最悪だ。
普通にレーニスが生きていたら、きっと僕は他の子供達が大人になるように、彼女の愛情をうっとおしく思い、自立をする日が来たに違いなかった。でも、レーニスは、ある日、突然いなくなってしまった。だから、ずっと引きずってしまっている。
レーニスと最期に会った日、僕は本に夢中なふりをして、さして見送りらしい見送りをしなかった。きちんと見送りをすると泣きそうな気がして、僕は本に意識がいってるふりをした。あの頃の泣き虫で男の子として頼りなかった僕は、レーニスがたまに不在の時、我慢をする事だけが、唯一の孝行だと信じていた。
「うーん…。お母さん、どうしているかなぁ…。」
「キロさん?」
「うん。」
キュオネはそう言うと、ぼんやりと天井を見詰める。
「大丈夫そうな気がするけど…。」
もし、彼女に対してする心配があるとすれば、僕らが帰るまでに、人1人くらい消していないかどうかな気がする。
作品名:After Tragedy5~キュオネの祈り(後編)~ 作家名:未花月はるかぜ