お加世
桜色の乳首にも容赦なく青竹が割り込んでいった。青竹の割れた先が柔肌に食い込む。それは何度も食いちぎるようにお加代を苛めた。
さすがにお加代も、この責めには苦痛の表情を露わにする。
「んんっ……、はうっ……、ああっ……」
しかし口を突いて出るのは快楽を思わせる喘ぎ声だった。
「うぬっ! これでもかっ!」
森田一徳の形相は変わり、息を切らしながら激しく青竹を振り続けた。同席した木村陣内や下役人たちは一同に、悪鬼の形相をした森田一徳に恐れ戦き、退くより他になかった。
「やめい! 森田、それまでじゃ!」
その声に森田一徳は我に帰り、振り上げかけた手を止め、振り向いた。そして驚愕する。
そこには北町奉行、加納主税が立っていたのである。
「森田、比度の責めは行き過ぎぞ。お主の気持ちもわからぬではないが堪えい」
加納主税は静かに森田一徳を諭した。
「申し訳ございませぬ。この娘が自白せぬ故……」
森田一徳はようやく我に返り、己の犯した過ちに気付いた。そして加納主税と森田一徳はお加代を見た。あれだけの責めを受ければ、当然失神をしていると思った二人である。しかしお加代は虚ろな瞳を二人に向け、口元に薄笑いを浮かべていた。
さすがにこれには加納主税も一瞬、怯まずにはいられなかった。しかしすぐに気を取り直すと、お加代を牢に戻すよう命じ、医師を呼んだ。お加代の傷の手当をするためである。囚人にここまでの配慮をする奉行など、そういたものではない。これからも加納主税の人柄が窺えるというものである。
奉行所の一室で森田一徳は加納主税にいきさつを報告した。
「ふーむ……」
それを聞いた加納主税は深く目を瞑り、両腕を組んで唸ったものである。そして続けた。
「のう、森田……。殺された清吉という男は、女を苛むことで己の欲を満たしていたらしい。そこまでならば男と女の間柄、口を挟むつもりはないが、清吉は次々と女を虜にした揚げ句、女に飽きると銀次という男と共謀し、その筋の女郎屋に売り飛ばしていた悪党だったそうな」
「なるほど。それで、あの娘の身体の傷も……。普通の者ならば打たれれば何かしら言うものの、あの娘は何も言わないばかりか、快楽に似た顔を崩さぬ始末。しかし、いくら悪党殺しとは言え、人殺しは人殺し。死罪は免れませぬ」
森田一徳が加納主税の顔を見つめ、きっぱりと言った。