そらのわすれもの3
知春は、人懐っこそうな顔で笑った。
優太も釣られて笑う。
知春のパジャマ姿に優太は違和感を一度感じたものの、具合が悪いのかと受け止め、さして突っ込まなかった。
来て良かった…。
優太は、嬉しそうな知春を見て、勇気を出して訪ねてみて良かったと思った。
考えてみれば、小さい頃から手紙をやりとりしていた仲だ。
会ってみたかったのは優太も同じだった。
「このシュークリーム、2つとも貰っちゃって平気なの?それとも、後で優太君も食べる?」
知春はシュークリームを冷蔵庫にしまいながら、ご機嫌で聞いた。
「いや、俺はいいや。お姉さんと2人になった時にでも食べて。」
「?」
知春は、冷蔵庫を開けたまま、奇妙な顔で優太を見た。
冷蔵庫には、飲み物やお皿が2つずつ名前が書かれ、入っていた。
それを優太は見つけると妙に感心をしてしまった。
「本当に2人で暮らしているんだな。」
「2人って?」
知春は冷蔵庫の空きスペースを作りながら優太に聞いた。
「知秋さんだよ。」
「知秋ちゃんかぁ!」
知春は、大分体調が回復したようで、動きが心なしか弾んでいる。
「優太君、何か飲む?お茶でいい?」
「あ…悪い。ありがとう。」
優太は、差し出された飲み物を受けとるとテーブルの前で立ったまま、1脚しかない椅子をじっと見つめた。何となく、それが不自然に映った。何かが間違っている。しかし、その原因がいまいち分からない。ふと周りを見渡すと、キッチンに隣接した部屋には、横に机がふたつ並んでいた。片方はファンシーなキャラクターが沢山乗っている机で、もう片方は教科書がバラバラと乱雑に置かれている机だった。
「私、立ってるから優太くん座って大丈夫だよ。」
知春は椅子を引いた。
優太は、適当に相槌を打ったものの椅子には座らず、ぼんやりと2人の机を眺める。
「どっちが知春ちゃんの机?」
「こっちだよ?」
知春は案の定ラブリーな方の机を指差した。
「お姉さん…。知秋さんは、どんな人?」
何となく、優太は聞いた。
知秋の机は、がさつに教科書が置かれ、傍にある本も角が折れたりと汚い。しかし、夜空の絵葉書だけは、コルクボードに几帳面に等間隔に貼られ、大切そうに並べられていた。あちこちにお星様モチーフのペンたてや置物が並べられている。知秋は、星のモチーフが好きなようだった。
「私も知りたいかも?」
知春は、口許に人差し指を置き、机の方を向いた。
その様子に優太は違和感を感じる。
さっきから会話がうまく噛みあわない。