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未花月はるかぜ
未花月はるかぜ
novelistID. 43462
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そらのわすれもの3

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3-2


知秋が住むアパートは、2階建てだ。日はとっぷりと暮れ、開けっ放しになっている窓からは何処かの家の夕飯の香りが流れてくる。車の音だけが遠くから、聞こえる。
「ぅ…。」
小さな声を漏らし、知春は目覚めた。胸が詰まるような息苦しさを覚える。
知春は、ベッドの中で、車のライトが行き来するのを何回か眺めてから、起き上がった。
身体がよろめく。脚に力が入らない。

知春は、知秋の時の記憶がない。けれど、この体調不良は、明らかに号泣した後のそれだった。
「大丈夫だよ。」
知春は、自分の中にいる今は意識の無い知秋に語りかけると、自分の頭を優しく撫でた。

知秋ちゃん、どうしちゃったのだろう?

よろめきながら、自然と筆談ノートを探す。筆談ノートは、テーブルには無く、ベッドの脇に無造作に開きっぱなしで置かれている。
知春は何が起きたのか気になり、ノートを拾い上げた。
しかし、そこに書かれていたのは、短い文章だけだった。
「ゆーたが来る?」
知春は、整った眉をしかめた。脈絡の無い文章に状況が掴めない。

ピーンポーン。

呼び出し音が玄関から鳴った。知春は驚き、パジャマ姿のまま、慌てて扉を開く。
「!」
知春は、目を丸くした。
中川優太がそこにはいた。待ち合わせ時刻まで学校にいた為、制服姿だった。制服は、着崩され過ぎず、第一ボタンのみ開けてあり、ネクタイがきちんと止まっている。ただ、日中水を被った影響か、シャツがまだ湿っぽい。
「優太君…?」
知春は、写真でよく見た淡白で落ち着いた顔を、不思議そうに眺めた。
「お姉さんから、会ってくれないかって言われて来てみたんだ。」
優太はそう説明すると、お土産のシュークリームの入った箱を知春に渡した。
「これくれるの?」
「一応、手ぶらじゃなんだと思って。」
「ありがとう!」