これも愛あれも哀
お兄ちゃんには、いつでも
女の影がまとわりついていた。
優しすぎて、別れる方法を知らないお兄ちゃん。
いままで付き合ってきた女たちと
今だに繋がっているのだ。
それは、彼の性格で、だから私も
お兄ちゃんの傍から離れられない。
そして一番たちが悪いのは
お兄ちゃんは、誰からも愛されすぎているという事を
自分でも気がついていることだった。
多分、永遠に私一人のものにはならないのだろう。
少し厚めの上着が必要になってきた頃
お腹もなんとなく、膨らんできた気もして
つわりもひどくなってきた。
「ねえ、今週中に病院行こうと思うんだけど」
「ついていけないけど、大丈夫?」
「うん」
出産の時のことを考えて、タクシーで10分以内の
総合病院を選んだ。
何から何まで初めての経験で緊張したが
誕生してくる命が、今の私の希望となっていた。
なのに
神様は残酷だった。
いや、現実は残酷だった。
医師の診断では、赤ちゃんは確かにいるが
ほとんど動いてなく、あと数週間様子を見て
その子の生命力に望みをかけるしかないという。
つわりがあるというのに、このまま
死んでしまうかもしれないというのだ。
お兄ちゃんは、私を慰め、優しい言葉をかけてくれた。
つわりがひどくて、ご飯も作れない私のことを
愚痴も言わずにそっと見守ってくれた。
「赤ちゃんがダメかもしれないのに、なんでつわりがあるの?」
毎晩、お兄ちゃんに泣きながら愚痴った。
お兄ちゃんは「きっと大丈夫だってことだよ!」と毎日励ましてくれた。
でも、赤ちゃんは結局ダメだった。
その上、子宮筋腫も見つかり最終的には
子宮を全摘出しなければならなくなった。
秋の終わりから、数ヶ月の間に
沢山のことがあった。
「結婚」という紙約束の話は
どちらからともしなくなっていた。