これも愛あれも哀
お兄ちゃんは、彼女と別れてきたのだろうか。
気になったけど聞けないし、付き合ってくれとも言われてないのに
聞くのも変だ。
「今夜、何食べたい?」
「うーん、タラコスパ」
「スーパー行こうか?」
「うん」
私はお兄ちゃんの、大きなサンダルを履いて
大通りとは反対の下り坂を手をつないで
歩いた。
「手…つなぐの、暑くない?」
「暑くない」
「オレ、暑いんだけど」
お兄ちゃんは、笑いながら言って、
タバコの自動販売機を見つけて
すかさず手を離した。
神社を抜けると、日陰が涼しくて
風が影を揺らした。
「わぁー蚊だ! 蚊だっ! オレ、蚊って苦手なんだよね」
「得意な人、いないんじゃない?」
「なにその上から目線な言い方」
「ふふっ」
「早く! 逃げよう!」
今度はお兄ちゃんが、私の手を引いた。
手を離すきっかけを失って、スーパーの黄色いカゴを持つまで
ずっと手をつないで歩いた。
食材を買い揃えて、スーパーの向かいの
小さな服屋の前で足を止め、お兄ちゃんが
「服、買ってあげるよ」と、オレンジ色した夏色の
マキシワンピを買ってくれた。
思えば、お兄ちゃんには沢山の物をもらった。
洋服、指輪、香水、ぬいぐるみ
思い出。
その中で、私が死ぬときに持っていけるものは
お兄ちゃんとの「思い出」だけなのに。
小さなキッチンに
二人で立って料理をした。
クロにも夕飯をあげて
私は、その夜、お兄ちゃんに料理された。
お兄ちゃんは
「おいしい」と言った。