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これも愛あれも哀

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「学校、行かなくていいの?」
「行きゃなきゃまずいよね…」

クロのキャットフードの缶を開け
白い器に移しながらお兄ちゃんが言った。

高3の夏休みの思い出のひとコマになるかもしれない
出来事が、新学期が始まったのにまだ続いていた。

「あと少しじゃない、卒業まで」
「うん」
「高校は出ておいたほうがいいよ」
「わかってるよ、来週行くから」

お兄ちゃんは26歳の大学生だった。
お兄ちゃんの住むマンションはお兄ちゃんの
親が持つ東京の1室らしく、実家は京都のタクシー会社を
経営しているらしかったが、よくわからない。
全部お兄ちゃんの友人から聞いた話だ。

私がこの部屋に来てから1週間が経ったが
お兄ちゃんは無口で、あまり自分のことは話さない。

冷房をガンガンにかけて、昼間だというのに
私は人形のように一枚ずつ丁寧に服を脱がされ
何も身につけずに裸のままでベッドの上で抱き合った。
フワフワした柔らかな毛が肌に触れると
くすぐったくて「くすぐったいよ…」と
そっと囁いた。

「いつから、オレのこと好きになった?」
「最初から」
「お兄ちゃんは?」
「最初から」
「嘘つき」
「嘘つき」

車の走る雑音が雨音のように聞こえる。
今まで聞こえなかった
時計の秒針の音が、時を刻みたがっているように
耳の奥の方まで響く。

玄関の鍵がカチャリと音を立てた。

「駿、いるの?」

ほんの数秒の出来事が、全てスローモーションのように
流れた。
髪の長い女性と目があった、彼女は驚いたような
哀しそうな、どうにもならないような顔で私を見た。

お兄ちゃんの彼女だった。

「お前、合鍵、返せよ」

お兄ちゃんはため息混じりにそう言うと、
裸の私にタオルケットをかけ
トランクスを履き、白いTシャツを着て
面倒くさそうに立ち上がり、部屋のドアを閉めた。

私はベッドに取り残されて
途方にくれた。

修羅場?

下着を付け、服を着た。

お兄ちゃんはブルーのシャツに着替えて
テーブルの上の部屋の鍵を持つと

「どこにも行かないで、待ってて」

真剣な瞳でそれだけ言うと、女性と部屋を出ていった。

ひとりぼっちの部屋に26℃の温度設定の部屋は
寒すぎた。


作品名:これも愛あれも哀 作家名:momo