あの日のキミにごめんね
数日後、万里子が、学校を休んだ。何となく聞こえてきた話では体調を崩したらしかった。
冬も間近な頃だから風邪でもひいたのだろうと、克弥は思った。
それから暫く、万里子に会うことはなかった。
あれ? 半月ほど過ぎたある日、午後の授業の教室を移動しているときに、克弥は、万里子の姿を見つけた。席で 図書室で借りた本を読んでいるようだった。
ふと、顔を動かした万里子の向こう側の顔、顔の左側に大きな絆創膏が貼ってあった。
克弥は、もっと見たい、どうしたのか知りたいと思いながらも、万里子に気付かれたくない気持ちがあった。
授業が終わり、土間の掃除当番の克弥は、万里子が、迎えにきた母親と担任の先生と居るのを見かけた。
白い絆創膏は、万里子の微笑みを隠し、痛々しく見えた。
「お大事にね。またあした」
担任の先生と万里子の母親が、ともに深々とお辞儀をしあっていた。
玄関を出て行ったあと、克弥は、万里子の担任の先生に声をかけた。
「あいつ、どうしたの?」
「万里子さんのこと? 気になるの? そっか、去年同じクラスだったものね」
「別に…。あんなでっかい絆創膏貼ってるから、聞いてみただけ」
「そう。顔が腫れちゃって、治療したそうよ。お掃除当番ごくろうさま」
万里子の担任の先生は、そういうと職員室へと戻っていった。
後日、克弥は、万里子のクラスの女の子が話しているのが聞こえてきた。
「万里ちゃん、お顔切ったんだって」
「うん、棘が刺さってばい菌がはいって、顔が腫れちゃったんだって」
「でもさ、縫ったから傷が残っちゃうんじゃない?」
「うん、うちのおかあさんなんて『女の子なのにね』って言ってた。どうなるのかなぁ」
克弥は、気持ちが震え出した。あの時の事が思い出された。
その日、克弥は、家までの道をずっと走って帰った。
早くひとりになりたかった。途中で万里子に会わないかと心配でとにかく走って帰った。
寒い空気に息が白く流れていった。
作品名:あの日のキミにごめんね 作家名:甜茶